無双

□EPISODE 2
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魔法少女リリカルなのは
A'S

無 双
- EPISODE 2 -
TITLE:
- TAKE IT CRAZY -



「最強、だ……?」


 鉄をも砕く鎚を、腕のたった一本であっさりと止めた男。それに少女の目が鋭くなる。


「自分で最強なんて言ってやる奴が最強な訳ねえだろ!」

「テメェがなにをほざこうが、俺あ最強だ! つまりぃいい!」


 少女の腹部に、師宗の足がめり込んだ。一分の容赦もない一撃は、みしりと生々しい、嫌な音を生む。


「俺はテメェより超絶にTUEEEEE!」


 力任せに叩き込まれた蹴りは、少女の痩躯をあっさりと吹き飛ばすに十分な威力を持つ。ビルの外へと弾き飛ばし、それだけでは収まらず、反対側の摩天楼に少女は突っ込むことになった。

 それはまるで、先のなのはと少女のやり取りの再現であり。違ったのはビルに叩き込まれたのが少女で、叩き込んだのが、最強だったという事。

 ガラスが飛散し、煙が立ち込めるそこから視線を外し、師宗はなのはに向く。


「随分とこっぴどくやられたもんだなあ」


 超絶に、と師宗が付け加える。ボロボロだった。なのはも、その相棒も。

 肉体も――そして何よりも精神が。

 それでも。それでも、最後の最後まで、諦めはしなかった。生きることを、諦めなかった。


「――が、もう大丈夫だ」

「師宗、さん……」


 壊れ物を扱うようになのはを抱き上げ、幼子をあやすかのように繊細に撫でる。

 常の師宗からは想像も出来ないような真似に、フェイトとアルフは言葉を失う。ユーノはそんな様子を以前見ていたので動じない。ようは馴れである。


「ユーノ、てめぇ、確か回復させる魔法持ってたよなあ」


 ジュエルシードの次元震。それを全身で浴びた際、ユーノが回復を促進した魔法を使っていた。なのはを下ろし、断定の意味合いで訊ねた。


「うん。任せて」

「さあて、俺ぁあちらさんをやってやるとするか」


 ふらつきながらも少女が立ち上がると、フリルの付いた服からガラスが落ち、石片が零れる。


(くそ……なんだアイツ……)


 強烈な一撃。【熟練の戦士】としての直感でとっさに受け身を取ったが、それをさし引いても、なお、余りある攻撃力。

 それをした男は、道路を挟んだ対岸のビルから、少女を見下ろしていた。


「てめぇがどこのどいつだとか、何にをしたかったとか……んなこたあどうでもいい。超絶にどうでもいい。重要なのは、なのは(俺のもの)に手ぇ出したんだぁ……覚悟は、出来てんだろぉなあ」

「覚悟? んなもんねーよ。あんな雑魚を潰すのに、覚悟も、何も!」


 そうだ。

 彼女の覚悟は、もっと他の所にある。

 汚辱に塗れようとも、貫かなければならないものがある。行わなければならないことがある。

 だから。


「グラーフアイゼン!」

『Swallow Flyer』


 鎚を振るう。

 少女は四つの鉄球を一斉に打ち出した。弾丸の速度とそう変わらない勢いで飛ぶそれを、師宗は掠りもせずに避ける。否、突き進む。

 大した動きの修正も加えず、進撃する師宗。表情を驚愕に染めるよりも速く、少女に肉薄した。

 爪を立てるように手を広げ、少女に迫る。


「ちぃっ!」


 少女は三角形状のバリアを張るが、師宗からしてみれば無意味。ガードというもの自体が無効だ。攻城砲の前に、人間の防御など、意味あるものか。

 あっさりとバリアを砕き、少女の頭を掴む。逃したりは、しない。


「桜月・二十七日!」


 そしてそのまま、ビルの壁に叩きつけた。接近の勢いが加算され、壁からギシギシと悲鳴が上がる。


「そぉらよお!」


 師宗が更に力を加えれば、呆気なく壁に穴が開いた。そして、少女の体が宙を舞う。

 掌を利用して爆発的な推進力を叩き出す技。斜め下に飛ばされ、少女の体はアスファルトと激突、発せられた土煙が、視界を覆った。だが。


「ラケェェエテン――」


 その視界を遮っていた煙を切り裂き、猛烈に回転する鉄槌が師宗に迫る。


「ハンマァアアア!!」


 ドリルに似た形状は圧倒的な【前へ進む力】を生む。故に、なのはのプロテクションもあっさりと破った。その威力は、お墨付き。

 だからどうだというのか。


「見えてんぞぉ……」


 師宗は柄を掴むことであっさりと止めた。ハンマーは面の攻撃であるが、その範囲は圧倒的に狭い。

 柄を掴んでしまえば、それで十分。そして、ハンマーは重量を威力に変えるもの。


「ガキがあああああっ!」


 師宗に止められない理由などない。

 容赦を一切抜いたアッパーカット。少女の軽い体はボールのように打ち上がる。


「かはっ……」

「しめぇだあ」


 飛ぶ以上のスピードで先回りした師宗は、足を振り上げる。全身のバネを使い、神代神闘流の中でも相当な攻撃力を誇るそれは、規格外の踵落とし。


「神代神闘流・七之月・文月ィ……二十三日ァアア!!」


 それは断頭台のごとく。

 振り降ろされる、脚。

 間違いなく少女を刈り取るそれは、


「あ゛あ゛?」


 突如として現れた女剣士に阻まれた。




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