無双

□EPISODE 1
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 鍛錬を終えた帰宅してたなのはは、私立聖祥大付属小学校の制服を着ていた。白を基調とした可愛らしいそれに袖を通す。

 私立だけあって、かなり上質な素材を使っており、布触りも良い。しかし、三年も同じものを着続けている身ではその恩恵も今一つ薄れてしまっているのだが。なのはの日常の象徴。

 制服に着替え終わり、姿見で問題はないか確認する。寝癖一つ、乱れ一つ無い。完璧であった。なのはも女の子。身嗜みくらい気にする。

 机の上に立てられた写真立てと、その側に置かれたDVDを一見し、窓の外――そこからどこでもないどこかを見て、一階にあるリビングに向かうことにした。

 朝食の用意がされたリビングには、なのは以外の高町家の面子が揃っている。


「なのは、郵便が来てるぞ」


 なのはの兄、高町家長子、恭也が大きく、厚い封筒をなのはに手渡す。


「ほんと?」

「海外郵便、差出人、フェイト・テスタロッサ」

「ありがとお兄ちゃん!」


 フェイト・テスタロッサ。なのはの部屋の写真に写る人物であり、DVDを送ってきた少女。そして、半年前、なのはと激突した少女。

 紆余曲折の果てに【友達】となったなのはとフェイトだったが、諸事情により、今は直接会うことは叶わない。

 その為、お互いの姿を録画したDVDを送り合っている。

 しかし、【あちら】にもDVDがあるのは驚きだった。少なくとも、この世界の十世代ほど先の技術を持っているというのに。

 思えば、携帯電話にも電話をかけたりしていた。どちらかと言うと、技術レベルを合わせているのだろう。劣った技術が優れた技術に合わせるのは無理だが、その逆はそこそこに簡単だ。


「いつものあの子だね。またビデオメール?」

「うん! きっとそう!」


 浮きだった様子を隠すこと無く、なのはは受け取った封筒を胸に抱く。


「その文通ももう半年以上になるよなあ」

「フェイトちゃん、今度遊びに来てくれるのよね。うちに来てくれたら、お母さん、もううーんと歓迎しちゃう」

「うん!」


 フェイトの抱える諸事情は、半年かけてようやく収束しようとしていた。起こった問題を考えると、終息までとてつもない早さである。何せ、フェイトはいくつかの世界を崩壊される計画に荷担していたのだから。

 それでもここまであっさりと問題が片付いたのは、死亡した主犯に丸々罪を被せた部分があるからだ。部分、どころか全体、とも言えるほどに。

 勿論、フェイトとしては苦渋の決断だったが。

 幾つもの世界。フェイトは、異世界の人物である。なのはの使う魔法もまた、その異世界の技術。

 ファンタジーではなく、オーバーテクノロジー。科学の果ての、魔法。

 それら複雑な事情を高町家の面々は、大体のところを把握している。


「ユーノも本当の飼い主が見つかっちゃって、めっきり寂しいね」


そう、【大体】把握している。


「お前は特に可愛がってたからなあ」

「うー」


 愛らしいフェレット(と思われる動物)。嫌がるフェレットを無理矢理洗うのがなのはの姉、恭也の妹、美由希の日課だった。勿論、良かれと思ってやった結果である。

 兄に修行で扱かれ、荒んだ心を癒やしてくれる存在だったのだ。心の清涼剤という奴である。

 偶に調子に乗った傍若無人も加わった時など、欠かせないものだった。死ぬ前に地獄を見るということが普通にある生活、それを普通、普通とは言わない。


「えっと――でも、また預かることになるかもだよ? その飼い主さん次第――」

「だといいなあ」

「ねー」


 可愛がっていた姉と母。彼女達を見ながらなのはは内心冷や汗を垂らす。

 ごめんなさい。嘘を吐きました。

 ユーノという名のフェレット。フェレットは、仮の姿であり、実際はなのはと同年代の男子であった。

 なのはも後になるまで知らなかったし、共に行動していた人物も、ただのフェレットではないと思っていたが、男子とは思っていなかったようだった。

 ならば、そのことを話せば良いようなものだが、だがしかし、高町家には二人の修羅がいる。

 よもや、いくらなんでも、妻と母、娘と妹の裸を見られたりとか、もみくちゃにされたからと言って、九歳男子に対し卓越した運動能力をフル活用しての報復行為なんてことは無いだろうが。無いだろうけれども。

 念の為、彼の身の安全のために。念の為である。誰がなんと言おうと、念の為である。それに。家族ではない方向からみっちり搾られたようでもあるし。あの子供染みた独占欲はなんとかならないのだろうか。




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