無双
□EPISODE 5.5
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「「「「おおお〜!」」」」
バニングス邸。邸、と付くほど広大なアリサの家には、私物であるシアターが設置されている。それも、映画館顔負けの音響設備が整った、ザ・お金持ち仕様である。
大画面、大迫力。そして、大興奮。
観客のテンションは最高潮まで上りきり、その余韻を残しながら、映画(今日発売されたばかりのBlu-rayだが)はエンドロールを迎えた。
「んーっ!カッコよかったぁ!あたし、将来ガンマンになろうかなー」
アリサは、興奮覚めやまぬといった体で、そう言う。指ピストルを作って辺りに照準をつけるその姿は、様になっていた。
「アリサちゃん、また?」
「影響されやすいんだから〜」
「ふふっ。でもアリサ、似合いそうだよ」
「でしょでしょ〜!」
「そぉかあ?日本刀持ってた方が似合いそうな気がするがなあ」
そういうのは、映画を観賞することよりも、雰囲気作りの為に用意されたポップコーンを貪ることに終始していた師宗の言。
小学生と、映画を見る、十九歳。なんだこいつ。
「なによ、それ」
「いや、贄殿――」
「フンッ!」
「あ゛あ゛?なにすんだ」
アリサから放たれた渾身のパンチ。とはいえども、それは、小学校三年生女子のひ弱なものであり、加えてターゲットは世界最強である。
いとも簡単に掴まれ、加えて、ひょいっと抱えられ、膝の上に乗せられた。
「なにすんだ、じゃないわよ!なに言ってんのよ!」
「あ゛あ゛?ネタだ、ネタ。そうかっかすんじゃねえよ」
ぽすぽすと頭を撫でればむっすりとした顔をアリサはしたが、嫌がる素振りは見せない。
「ねえ、なのは。なんのこと?」
「ううん、フェイトちゃんには分からないものだし、分からなくていいものなの」
「え?」
外人のフェイトには決して分からない。外人。外国人ではなく、外界人。分かろうはずもない。
「ガンマンになりたいねえ……」
「なによ、文句あるの?」
シャー、と威嚇するアリサを見て、ゲラゲラと師宗は笑う。
「犬が好きな癖して、お前、猫っぽいよなあ」
「キィイイイイッ!」
なぜだか、無性に腹の立ったアリサだった。
というか、この反応そのものが答えのようでもある。
「ま、ガンマンになりたいってえなら、成れるだろぉなあ。アリサ、てめえならよお」
「……お世辞?」
「ハッ!そんなもん言ってどぉなるってんだあ?」
嘘の苦手な師宗は、お世辞も言えない。人物評価については、純然足る評価を下す。
もっとも、アリサは言われるまでもなく知っているが。しかし、そこはそれである。
「てめえはやろうと思えば、大抵のことが出来るだろうからなあ。ガンマンもフレイムヘイズも人並以上にやれるぜ?」
「いつまでそのネタを引きずるつもりよ……」
とはいえ、冗談混じりと言えども、師宗が言ったことは事実である。基本的に、アリサは大概のことをオールマイティーにこなせる、典型的秀才タイプなのだ。
レベルの高い私立でも首位を取り続けている、才媛。それがアリサ・バニングスその人。
「だが、あれだ。ぶっちゃけ、ガンナーとして一番向いてんのはすずかだな」
「え?そうなの?」
「あはは……」
師宗に見られ、アリサに見られ、なのはとフェイトに見られ。すずかは苦笑いを浮かべるしかなかった。
四人の中で最も身体能力が優れているのは、すずかなので、納得された。視力は余裕で2.0。視力検査ではこれが限界なので、実際はもっとプラスされるだろう。加えて、これはすずかと師宗しか知り得ないが、夜目が利く。
暗闇すらも見抜けるその眼力は、ガンマンというよりは、スナイパーだが。
「まだ少し時間あるから、ゲームでもしようか」
とりあえず、すずかは話をずらすことにした。
「うん!」
「いいね」
「何やろうか?」
ガンマンの適性なんてものよりも、ゲームの方がよっぽど面白い。すずかは内心ほっと息を吐いた。
「対戦だよ、やっぱり〜」
「ま、負けないよ……?自信ないけど」
フェイトにとって、地球の文化というのは新鮮なものばかりであった。時の庭園にはゲームなんてものは無く、あったのは、コンピュータくらいなもの。そも、娯楽なんてものはなかった。
娯楽と言えば、アルフと遊ぶことくらいか。プレシアは、そんなものを与えてくれなかった。
「なのはちゃん、対戦強いもんね〜」
「ハンデ五つくらいつけないと」
「えぇ〜!?何で何で〜!?」
小学三年生の身でありながら、なのはは機械に強い。それも、べらぼうに。具体的には、壊れたラジオを直せるくらいに。その内、コンピュータを自作するつもりらしい。
デバイスも超々高度なコンピュータのようなものらしいので、レイジングハートともっと分かりあえるかも、と密かに思いを抱いていたり。
「ハッ!ハンデなんざいるか。そんな余裕は超絶に必要ねえなあ!全力でこいやあ!なのはァ!超絶にぃいい!」
「はいなの」
「……壊さないでよね」
某有名格闘ゲームを立ち上げる。勿論、対戦モードだ。
威圧感たっぷりの師宗と、リラックスしたなのは。
戦いの火蓋が切って落とされた。
「上上下下左右左右BA」
「ウボァー」
『PERFECT!』
画面に表示される文字を親の仇とばかりに師宗は睨み付ける。徹底的にボコられた。酷い有り様だった。
テンカウントも保たなかった。
「ぐぐぐぐぐ……」
「相変わらず、滅茶苦茶弱いのね、師宗さん」
プッ、と笑うアリサに青筋を立てても誰も責められまい。
「クソが……!現実じゃあ俺の方が強えってえのによお……!」
「でも、不思議だよね、なんでこんなに弱いんだろ?」
フェイトは首を傾げた。
クイズゲームならばともかく、格闘系ならばむしろ、師宗の土俵のような気もするが。
「知るか。あ゛あ゛、ド畜生が。ボタン押してからの動くまでのラグはあるわ、動きは限定的だわ、ストレスが溜まるだけだ!クソゲー!クソゲー!クソゲェエエエ!」
「……それって」
「ゲーム以上だからってこと?」
「にゃはは」
師宗が強すぎる弊害がそこにはあった。まあ、そもそもコマンドすら覚えていない時点で、色々と問題がありありである。最弱設定のCPUよりも弱い。なのはにしてみれば、魅せプレイの為のサンドバッグに過ぎない。
「ぬがあああああああ!もう一回だ!もう一回!」
「え?でも、他の皆もやりたいだろうし……」
「誰でもいい!俺はぜってえ勝つ!」
無双