無双

□EPISODE 4
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「ロストロギア【闇の書】捜索及び魔導師襲撃事件の捜査司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん。以上三組に分かれて駐屯します。ちなみに司令部はなのはさんの保護をかねて、なのはさんのお家のすぐ近くになりまーす」

「マジでか」


 こうしてアースラ組の地球滞在は決まった。




魔法少女リリカルなのは
A'S

無 双
- EPISODE 4 -
TITLE:
- THE DEADLY SINS:UNDERMINE SLOTH -



 自然がそこそこに残りつつも、区画整理の進む海鳴市。ここ最近に建てられた、主に家族を対象にしたマンション。位置的にも価格的にもベランダから海が一望出来るそれは転居者になかなかの人気振りであった。


「うわ、うわ、すごーい! すごい近所だ!」

「ほんと!」

「ほら、あそこが私の家!」

「俺ん家よりも近え……かあ?」


 山の中、それも奥にある師宗の家。実際ここよりも遠い。地理的にも精神的にも。


「まあ、あんだっていいんだけどよお」


 ぽんっと手にもったハンバーガーを口に投げ入れ、殆ど咀嚼せずに呑み込む。並外れた師宗の行動範囲と移動速度が故の弊害とも言える。

 なにせ、外国に行くのもちょっと遠いコンビニにいくような感覚の男なのだから。海に囲まれていようとお構い無く、国境なんて蹴り飛ばす。


「つうかよお。世界で一番有名なハンバーガー屋にいったんだが……」

「素直にマックじゃないの?」

「あ゛あ゛ん? んなことしたら
超絶な教祖に消されっちまうぞお?」

「師宗さんが怖がるほどの存在……?」


 別段怖がっている訳ではないが、フェイトの脳内ではそう変換された。浮かぶのは名状し難いなにか。


「………………! ………………!」

「なんだなんだあ!? フェイトが急に泣き出したぞお!? オイ!?」

「大丈夫フェイトちゃん。一部の独断と偏見で作り出された歪んだ偶像だから」

「……偶に思うんだが、お前年誤魔化してねえかあ?」


 早熟というよりも最早老成しているようにすら思える。


「師宗さんの相手をしていたら嫌でもそうなるの」


 元々その気はあったが。その辺りの事情はなのはも理解しているし、納得して結論も出している。だからこそそれが子供らしくないといことになのはは気づいていない。


「んなこたあ置いといてだあ。さっき 世界で一番有名なハンバーガー屋にいったんだが……」


 どうやら変えるつもりはないようだった。


「スマイル プリーズ☆つったらひきつってたんだよなあ。しっかりしろってえの」

「君の腕の中にあるそれのせいだろう」


 師宗の腕。二メートルに迫る高身長を誇る師宗に比例して長くなる腕は、胴とのバランスを見ると更に長い。

 常人と比べて遥かに大きな腕を持ち、その分空間をカバー出来る訳だが、そこ全てがハンバーガーによって埋め尽くされていた。

 山である。ハンバーガーの山である。数えるのが嫌になるくらいのハンバーガーの山である。

 地球に戻ってきた師宗はいつの間にかいなくなり、いつの間にか戻ってきていた。顔が見えなくなるほどのハンバーガーを抱えて。種類は全部チーズバーガーなのを見ると、ただ単に【食べるだけ】の為に買ってきたようだった。

 ドリンクもポテトも頼まずあり得ないくらいのハンバーガーを買っていけばそれは引き吊る。


「そおか。つーか、ミッドチルダ(そっち)にハンバーガーなんてあんのかあ?」

「似たようなものはある。これは次元世界全体に言えるが、【人類(ホモ・サピエンス)】という種族が繁栄した時点である程度進化の方向性も似通うんだ」


 進化の可能性は多岐に渡る。地球だけでもカンブリア期、虫、恐竜、哺乳類と何度と覇者はその形を変えてきた。

 しかし、人の歴史は繰り返すとはよくいったもので、人である以上細部は違えど似たような歴史を辿る。 類時点は意外と多い。


「だから、こっちではハンバーガーはハンバーガーで……」

「あ゛ん?」


 ハンバーガーはハンバーガー。妙に哲学的な何か。


「ああ、すまない。翻訳魔法があるから、そっちの言語に訳されてしまったようだ」

「翻訳魔法だあ?」

「そう、世界が違えば当然ながら使用する言語が違うからね。管理局員ならば必ず使用している」


 国が違うだけで文化が違う、言語が違う。世界そのものを跨げば、その全てが違う。デバイスを介することで言語をインプットアウトプット共に翻訳するのだ。

 因みに、人にかける対人系ではなく、一定範囲内に効果をもたらすフィールド系である。


「【クロノ・ハラオウン】というのも僕が実際に言っている発音とは厳密には微妙に異なっている。君たちの言語に最適化されているんだ」

「つまりなんだあ? てめえの側にいりゃあ外国人と喋り放題?」

「まあそうなる」


 因みに、師宗は外国人と会った場合、持ち前の勘で相手が言っていることをなんとなく理解することが出来るが、自分の言っていることは伝わらない場合が多い。

 それでも意外となんとかなってしまう場合がある。基本的に動作が大きいからか、なんとなく、本当になんとなく伝わることがあるのだとか。


「てこたあ、なんだ、魔導師がいねえと会話もろくに出来ねえってことじゃねえか」

「……? どういうことだ?」


「だからよお……」


 両手が塞がっているにも関わらず、器用に手帳を開きながら、師宗は言う。


「あ゛あ゛――次元世界ってえのは山ほどあるんだろお? てえことはそれだけ人が来るってえことでもある。万国博覧会――いや、万界博覧会つー訳だ。来ている人間の数だけ言語があるんだっていうのなら、魔導師がいなけりゃ会話もままならねえだろ?」

「相変わらず、変なところに気付くな、君は」


 勘なのか、それとも他の何かなのか。師宗の奇妙な視点は半年前の一件でも役に立っているから何とも言えない。

 今回も世話になるかも知れないと漠然とクロノは考えていた。


「管理世界には翻訳魔法による結界が張られているし、管理外世界には原則魔導師しかいけない。まあ、世界から世界への旅行時は非常事態の為に翻訳専用の機械を持つケースも見受けられるが」

「めんどくせえ奴らだなっと」


 百を越えるハンバーガーを全て宙に投げ、師宗はそれらを一気に腹の中に納めた。


(包みごと食っただと!?)


 クロノ、驚愕。




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