無双
□EPISODE 3
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ヴォルケンリッターの逃走と御中師宗の失踪。師宗がヴォルケンリッターの追撃出たという考えに行き着くのは容易い。
事実、なのはの襲撃されたそこから数キロメートル離れた所で結界の発動が観測された。
結界へ直接侵入ることはできないので直ぐ近くまで転送、フェイトとクロノは結界内に突入する。
けれども、それも一瞬のこと。現実世界と結界の境界を越えると同時に結界そのものが消失した。夜でもなお明るい街。高層ビルがいくつも建ち並び、車が列になって走って行く。魔法など何処にもない光景がそこには広がっている。
そして、彼は――師宗は、一際高いビルの屋上に立っていた。煙を燻らせ、時折大量の白煙を吐き出すその姿は非常に良く目立つ。
「師宗さん!」
「フェイト……とクロノか」
「彼らは?」
なにやら含蓄のある言葉は無視して、クロノは師宗に訊ねる。
「逃げた」
「逃げ……! エイミィ追跡を!」
「やめとけ。多分、出来ねえ。たあっく、何もしてこねえと思ったら、逃げる為だったとはなあ。折角、閏で飛ばしてやろうと思ったのによ」
神代神闘流、番外、閏。その発動とともに、それまで防御もサポートも、なんの関与もしてこなかったシャマルが動いた。
転移魔法。自分達に害が及ぶ前に、魔法を使い逃げ仰せたのだ。
魔法を一切使わなかったのは使えなかったということであり、恐らく、師宗が現れてからずっと術式を構築していたのだろう。
そして、ここぞと言うときに、その札を切った。
「まあ、賢い選択だあ」
あの状況で逃げるという手段を選べるものはそうは居ない。始めから予定されていたことだったとしてもだ。
その選択は限りなく正解である。あのまま戦うことがあれば間違いなく、四人全員が無事ではなかっただろう。
シャマルと呼ばれていた金髪の女性。見たところ典型的な後方支援者であり、同時に参謀的位置であるというのは簡単に予想出来る。
『ごめん、クロノくん。あの人達囮(デコイ)撒いた上にそれぞれが複雑に転移しちゃって……』
「な?」
「な? じゃないんだが……」
「そんなことよりもだ。なのははどおしたあ。なのははあ」
「今、管理局本部に搬送されてて――とにかく、命に別状は無いって」
「そおかぁ」
にたりと笑う師宗に、クロノはそっと溜め息を吐く。
なのは、それにフェイトに何かあったらただではすまないと。
全くもって我が儘で、手前勝手な理屈だ。頭が痛い。本来ならば許されないような所業すらも、可能にする。
当然の感情だが、当然の感情が故。
無双