無双

□EPISODE 2
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 フェイト・テスタロッサの裁判は恙無く終了した。フェイト・テスタロッサえの判決は、無罪。

 元々、出来レースの裁判ではあったのだが。死人に口無し、殆ど全ての罪は彼女の母親にして黒幕、プレシア・テスタロッサに被ってもらっている。

 そもそもそんなことをせずとも、世間一般の目は【狂気に駆られた科学者に利用された可哀想な子供】になるので、情状酌量という名の同情は貰えただろう。

 むしろ、被害者として扱われての裁判は起こった出来事に比べて見れば、有り得ないほどの速度で済むこととなった。

 そのことの報告と、何よりも顔を合わせて話したい人がいたフェイトは使い魔のアルフと、裁判では証人になったユーノと地球に訪れたが、出迎えたのは、中を見通せない結界だった。


「ここになのはが……?」


 バルディッシュを展開したフェイトが零す。


「多分……。ほぼ確実に。探査魔法をかけたけど、ここ一帯になのはの魔力は感じられなかった」


 魔法という技術と触れ合ったことで、なのはの魔力は日に日に増して行っている。

 考古学者という職業柄、そういった魔法を得意としているユーノの魔法にそれだけ強大な魔力が引っかからないということは――間違いなく。

「ぐだくだ考えてないで、さっさと入っちゃったらどうだい?」

「……そうだね、取り返しのつかないことになるかもしれない」


 アルフの言い方に、ユーノは一人の男を連想する。【彼】ならば、とにかく結界に飛び込んで、それから後のことは後で考える。そう、彼――御中師宗ならば。


「ゲラゲラ。何だあ? 十年振りに海鳴に来てみりゃあ超絶に懐かしい顔がぞろぞろとお」

「いや、僕と最後にあったのは半年前だからね、師宗さん――って、え? 師宗さん?」


 あまりにも自然に答えてしまったが、今話したのは。


「半年振りなあ。ハッ、まあ、十年だろうと一日だろうと、少なくとも、俺の知る海鳴ってえ土地にゃあこんなもんはなかったよなあ」

「師宗さん!?」


 結界を眺める、無駄を一切排除した肉体を持つ大男。御中師宗がそこにいた。


「師宗さん!」


 金色が走る。体当たりでもするかのように、フェイトが師宗に抱き付いた。

 腰の辺りに腕を回すフェイトの頭を撫でつけながら、師宗はフェイトを見る。半年や十年と時間感覚が大雑把であれど、一先ず、会っていなかったということは分かっている。


「久しぶりだなあ。フェイト」

「久しぶり……だけど、どうして連絡くれなかったの?」


 武骨な手の感触を享受しながら、師宗を見上げる。

 フェイトは保護者公認で師宗の【モノ】だ。別段それを苦に思っていない。むしろ、進んでその扱いを受けている。

 悪く言えば、鞍替えした、依存対象を移したフェイト。だが、この半年、師宗は完全なる音信不通状態だった。

 師宗と最も近しいだろうなのはですらも一切の足取りを掴めなかったのだから、仕方ないとは思っていたものの、実際会ってみると、問いたださずにはいられない。


「あ゛あ゛、ちぃっとばかし、色々あってなあ」

「答えになってないよ……」


これがなのはならば半眼にでもなって いたのだろうが。フェイトはまだまだ純粋――あるいは天然であった。

 微妙に目が潤んでいる。それに気付いた師宗ははて、と思った。

 記憶に関してはいい加減な師宗だが、人を丸々忘れるわけではない。こんなにも子供だったか、と感じるほどには憶えている。


「フェイトぉ、そりゃあ毎日連絡は無いかって訊いてたくらいだから仕方ないんだろうけどさ、今はそんなことよりも――」

「なのは、だろお?」

「――っ! 知ってたのかい!?」

「いーや知らねえ。嫌な勘が働いてなぁ。来てみたら案の定だ」

「勘……」


 馴れたけど。ユーノが溜め息を吐く。師宗を不条理な存在にしている要素の一つだ。


「まあ、なのはの身も気になるが、こいつを張った奴も気に――」


 瞬間、師宗の姿が消えた。

 感じていた温もりが急に失われたことに唖然とするフェイト。今の今まで目の前にいた人間が消えたことにアルフは言葉を失い。

 一人、師宗に耐性のあるユーノは、何かあったのだと冷静に取らえていた。




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