短編
□掃物語
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「なぜなんだい、神原さん」
缶
籠
「春夏秋冬先輩……」
缶
籠
「どうして。一体、なぜ……なぜこうも、君は、君という奴は……!」
缶
籠
「それ以上は言わないでくれ、春夏秋冬先輩」
缶
籠
「言うな? 言うなだって? 神原さん。それは出来ないよ。出来ない相談だ。見逃さないし、神原さん、君に言い逃れもさせない」
缶
籠
「わざとではない。……わざとではないのだ。天地神明に誓って本当だ。故意ではない。当然、悪意でもない。本当だ。本当なのだ。信じてくれ、春夏秋冬先輩」
缶
籠
「信じよう。信じるさ。けれど、信じるだけじゃあダメなんだ。それだけじゃ、現実はなにも変わらない。神原さん。君の事を信じようとも、信じまいとも、何一つ変わらない。現実は無情なんだ」
缶
籠
「し、しかし、私は……」
缶
籠
「なぜ……なぜだ。なぜなんだ」
籠 缶
「なんでこんなにも部屋が散らばっているんだあああああ!」
ゴミ! そこにあるのはゴミ! ゴミの山! イコールでの、神原さんの部屋だった。
以前、僕は暦と共にこの部屋を片付けた。それが。それなのに。たったの数日でこれだ。なにがどうなっているのか。足の踏み場も無い散らかり様。恐ろしいのは、以前の状況と大差ないということ。数年の汚れだったはずなのに、なぜ。
「ふむ、わからん」
「わかってくれ! 原因は間違いなく君のはず!」
「いや、それがだな、春夏秋冬先輩。おかしなことに、なぜかこうなってしまうのだ。もしかしたら、私はゴミの台風の目なのかもしれない」
「いや、台風の目だったらここは散らかってないから」
それでいて、周りが被害を受けるというのだから、理不尽だ。
「ならば、私はゴミの渦の中心、ゴミ渦だ!」
「ゴミクズと発音が被ってるし、そんな蔑称でいいのかい!?」
この子、マゾだ!
[今更]
「だが春夏秋冬先輩。別段、問題はないのではないか? 人様には迷惑はかからないし」
「現在進行形でかかってる。かかってる」
目の付け所が変なんだよなあ、この子。
「私、神原駿河だけなら問題ないというのだ! 春夏秋冬先輩! 」
「エゴだよそれは!」
「私、神原駿河が分別をしようというのだ! 春夏秋冬先輩!」
「エコだよそれは!」
「私、神原駿河をブロックで作ろうというのだ! 春夏秋冬先輩!」
「レゴだよそれは!」
「私、神原駿河をレタリングしようというのだ! 春夏秋冬先輩!」
「ロゴだよそれは!」
「クロウカードの守護獣だというのだ! 春夏秋冬先輩!」
「ケロだよそれは!」
「木の幹に穴があるというのだ! 春夏秋冬先輩!」
「ウロだよそれは!」
「私、神原駿河だというのだにゃー」
「ネコだよそれは!」
後、それは羽川さんだよ!
「私、神原駿河、ダト、イウノダー」
「ロボだよそれは!」
「私、神原駿河だというのだ!」
「エロだよそれは!」
「即座に私=エロだと結ばれた……嬉しいはずなのに悲しいぞ」
「普段の態度を改めなさい!」
そもそも嬉しがるな!
このやり取りで嬉しがる要素なんてものはまるでない。微塵もないはず! 自分がエロいと言われて喜ぶなんて、本当に、なんというか。
いや、なんとも言えないけど。本当に。
神原さん、だからだよなあ……。あれ、でも、ならなんで一抹の悲しみなんてものを抱えたのだろう。
うーん。
「エロさに関しては自重する気はないが――」
「してくれ!」
「自重する気はないが――」
無視された。
「片付けについては改善を試みたのだ」
「へえ、そうなのかい」
「うむ。やはり、春夏秋冬先輩を迎い入れるにあたって、部屋が汚いのはよくないことだからな」
その台詞はもの凄く遅いような気がする。
「片付け始めた矢先、以前セット買いしたワンピース全巻が発掘されてだな」
「うん?」
初っ端からなんだか雲行きが怪しく……
「いやあ、流石は日本国民が一冊以上、中国国民に直すと〇.二冊は持っていることになり、バチカン市国では三三万七五〇〇冊持っている計算になるだけはあるな」
「その計算はおかしい」
計算自体は合ってるけど。やっぱりおかしい。
「序盤から引き込まれ、気付けば七〇冊近くを丸三日かけて熟読してしまった」
「やっぱりか!」
掃除、あるいはテスト勉強で一番やってはいけないパターン!
最早それは魔力! 引かれてはいけない重力場がそこにはあった!
「改めて思ったのだ……やはりゾロサンこそが私のバイブル。私のサンクチュアリなのだと」
「落ち着くのはそこか! そこなのか!」
結局何も変わってないじゃないか。なにも。なに一つ。
[見方ガ參佰陸拾度變ハリマシタ]
「私たち腐女子をなめてもらっては困るな! 春夏秋冬先輩!」
「掃除しろ!」