ステキな作品

□外堀を埋める
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この処、どうも調子が狂う、というか狂っていた。
何か変だな〜と思うことがこの所しばしばあって、でも考えても分からないからそのままにしていた。
昔から考えても分からないことは放置する主義だから。
どうしてこうも調子が狂うのか。
それは決して私が原因じゃない・・・・ような気がする・・・・多分。
仕事も結構順調だし、となると何もかもこの私の隣にいる、飄々とした仁王雅治のせいに違いないって思ってる。
この考えは絶対に間違いないはずだ。
それにしてもどうしようか・・・・・
これは考えないと絶対ダメな問題だ。
どう切り出せばいいのか、それが今の最大の悩みでもある。


















外堀を埋める



















この仁王雅治と言う男は掴み処がない。
初めて顔を合わせた中学生の頃からそうだったけど、付き合ってもう5年も経とうとしている今でもその印象は変わらない。
いや、この掴み処のなさは最近拍車が掛かってきているように感じている。
本心はどこにあるんだろうって思うことも一度なんてもんじゃない。
私の友達に言わせると、そういう男と付き合ってる私も同じようなものだと言う。
所詮同じ穴の狢だと。
違うと思うけど・・・・・
全然違うよ、私と雅治では。
私はあんなに訳分からないこと言わないし、しない。
多分だけどね。










仁王雅治と出会ったのは私が中学に入学した時。
入学式で初めて見たときなんて派手な輩だ、それが私の第一印象。
今ほど身長も高くなかったし、もうちょっと幼い感じではあったものの、雰囲気は今とほとんど変わらない。
どこの言葉か分からない言葉を使い、どんなことも受け流すような感じだった。
中学生らしからぬ姿だった、私にとって。
その後も怒ったところを見たことなければ本気で笑った顔も見たことがないような気がしている。
普通、中学1年って言ったらもうちょっと喜怒哀楽があると思うんだけど。
接点なんかなかったし、作ろうとも思わなかった、本当の所。
だって私とは違う人種だと本気で思ってたし。
それが入学式でのこと。
だけど何の因果かその雅治とは中学時代はいつも同じクラス。
マンモス校のくせに何だってこんなにも同じになる!ってあの時は思ってた。
もしかしたらこの仁王雅治の策略かって考えて、先生に詰め寄ったことだってある。
その時の先生はそんなことあるはずないだろうって取り合ってくれなかった。
私の苗字と雅治の苗字ではかなり離れているから出席番号順の席の時はいいけど、席替えをすると何でか隣か前後の席になる。
このままの席でいたいと思っても定期的に訪れる席替えが私の中で一番嫌いな行事だった。
接点ありまくりの日々にうんざりしていた、あの頃は。















「もうちょっと離れて」「何でじゃ?」という言葉の応酬はもう日常茶飯事で、周りもそんな私たちのことは触らぬ神に祟りなしって感じで見て見ぬ振りをする。
席が隣の時に限って教科書は忘れてくるし、そうなれば当然机をくっ付けないとダメで、そんな時は何でか私に密着するようにしてくる雅治に本気で怒ったときもあった。
そんな時も雅治はどこ吹く風。
「視力が悪いんじゃ」ともっともらしいセリフを並べ立てていた。
視力が悪いんじゃ仕方ないかなって思ってたのに、本当はそう悪くないと知ったときはこれは一種のいやがらせかって思った。
いや、いやがらせに違いないって思ってた。
さすがに部活は同じじゃなかったし、私の唯一の安らぎの時間は部活の時間だったような気がする。
そんな雅治でも何でか異常にモテた。
ラブレターは靴箱にぎっしり入ってて、誕生日、バレンタインなんて行事には一種のお祭り騒ぎだった。
呼び出しなんかもしょっちゅうあったみたいだし、でも何でか雅治は彼女というものを作らなかった。
女の子と適当に遊ぶことはあったみたいだけど、特定の彼女というのを作らなかったのだ。
だから周りには遊び人と認識されていた。
あんなののどこがいいんだろうって本気で考えて、全く分からないから考えるのもいつしか放棄した。
そんな雅治でもテニスには本気で打ち込んでいたようで、応援と称して全国大会に行ったとき、(学校からのお達しだ)負けた雅治はものすごく悔しそうだった。
いつも飄々としてて、感情を露わにしない雅治しか見てなかったから、そんな雅治の方がいいなって思ったのも確かだ。
だって、まだ中学生だよ。
喜怒哀楽はあった方がいいに決まってる。
口には出さなかったけど。
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