ステキな作品

□アゲイン・ラブ
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今でも覚えてる・・・。
 あの人の笑顔、あの人のぬくもり、あの人の声・・・。
 

 ジリリリリリリリリ・・・


 あ、待って、忍足君! 私、私、あなたの事が――――――




         アゲイン・ラブ





 恭子は、気だるそうに体を起こし、目覚ましを止めた。
 「はーー。またこの夢見ちゃった・・・。中学の同窓会が近いからかな・・・。」
 そして、キッチンで熱いイコーヒーをいれ、パンをトースターにセットして、リビングにゆったりと座った。
 目の前のテーブルの上には、写真立てが1つ神々しい気配を放っていた。その写真は、中学時の運動会の写真。二人三脚で忍足侑士と一緒に1等をとった時も物であった。
 

 毎日目にするこの写真を見る度に、ああ、好きだった・・・いや、今も好きだな、と思う恭子なのであった。


 そして、一週間前から同じテーブルに置かれているのが、中学の同窓会のお知らせのハガキ。
初めての同窓会。
 恭子の胸は高鳴っていた。忍足君に会えるかもしれない・・・その思いが、連日の中学時代の夢を引き寄せている、そう恭子は思っていた。



 そうこうしている内に、あっという間に一週間が過ぎ、同窓会の当日となった。


 『氷帝学園中等部 同窓会一同様』


 ホテルのロビーに掲げられた札を見て、恭子のドキドキが更に高まった。そして、受け付けを済ませ、会場のドアをそっと開けた。
 すでに話が、あちこちで盛り上がっていた。


 「恭子? 恭子じゃない!? 私よ、綾子!」
 恭子が振り向くと、そこには中学3年の友達の富岡綾子がいた。
 「ええ、綾子!? きゃあ久し振り〜〜〜!!」
 「恭子も元気そうで良かったぁ!」
 「私も会えて嬉しい!!」
 しばらく出会いの喜びを、恭子は綾子と過ごした。


 「ね、忍足君、来てるわよ。」
 綾子が恭子にささやくように言い、恭子の顔が一気に赤くなった。恭子は綾子の言う方向をじっと見て、そして、見つけた。忍足侑士を・・・。


 「ど、どうしよう・・・!」
 恭子は綾子にすがった。
 「私の情報によると、今、彼女いないらしいわよ。」
 綾子は広報部で、情報収集には長けていた。
 

 「呼ぶわよ!」
 「ええ!?」
 「忍足くーーーん!!」
 「ち、ちょっと綾子!!」


 「ん?、富岡に頓田やないか? お前達いつも一緒やったけど、今日も一緒なんやな。元気しとったか?」
 忍足が恭子達の方へ歩きながら聞いてきた。
 「私も恭子も元気よ! じゃ、私他の人に挨拶に行くから・・・!」
 ウインクを恭子に残し、綾子は人込みに消えて行った。


 「懐かしいな。頓田は結婚したんか?」
 「ううん。今は会社でОLしてるの。忍足君は?」
 「俺も一人やで。仕事はテニス教室の教師をしとる。」
 「凄い!!」
 「凄くないで。子供に振り回されっぱなしや。」
 「ふふ、でも忍足君、テニス上手かったから。」
 「・・・いつも練習見ててくれたもんな。」
 「え?」
 「嬉しかったで。」


 忍足が真っ直ぐに恭子の瞳を見つめた。恭子は言葉が出て来なかった。
 

 「・・・ふっ・・・俺達ももう28歳やな。」
 「え、あ、うん。そうだね。」
 「なぁ、頓田。中学を卒業してから今日まで、どんな毎日送っとったん?」
 「え?」
 「俺の知らない頓田を知りたいって思ってな。」
 「ど、どうして・・・?」
 恭子の鼓動がドクンドクンと大きく脈打った。


 「・・・それは、秘密や。・・・そないに簡単に教えたら、俺の苦労が・・・」
 「え? 何? 最後の方・・・よく聞こえなかったんだけど・・・。」
 「まぁ、そないに気にせんと、まずは再開の乾杯をしいへんか?」
 そう言うと忍足は、近くのテーブルからビールを持って来て、グラスに注いだ。
 「ありがと。」
 「じゃあ、俺達の再会を喜んで、乾杯!」
 「乾杯!」
 チンとグラスの当たる音が恭子には、心地よいメロディのように思えた。そして、今ここで、忍足と2人切りで話をするとは思ってもいなかったので、まるで、中学時代に戻ったような錯覚に陥った。


 「俺が一番思い出に残っとるのは、運動会や。一緒に二人三脚に出たやろ? あれで1等をとった時は嬉しゅうてな。富岡に頼んで写真を焼き増ししてもろうたんや。その時、頓田も焼き増しを頼んだって聞いて、益々嬉しかったで。」
 忍足君が・・・私と同じ事を・・・?
 まさかの展開に、恭子は胸を躍らせた。


 両想いだった・・・の?


 恭子の脳裏にその言葉が浮かんだ。
 だが、卒業してからもう10年以上も経っている。その言葉を口に出しても仕方がない・・・恭子はそう想った。


 「なぁ、頓田。同窓会抜け出して、違う店で飲まん?」
 「え? う、うん。いいけど。」
 「じゃあ、行こう。」
 忍足が恭子に手を差し伸べた。恭子は躊躇しながらも、忍足の手に自分の手を重ね、2人は手を繋いで同窓会を抜け出した。そして、忍足がよく行く、というバーに出向いた。


 
 「あ 忍足さん、久し振り。そっちは彼女かい?」
 「まぁ、それは、これから次第や。」
 「忍足君?」
 「いや、何でもあらへん。じゃあ、さっそく聞かてくれんか? 今までの頓田を。」
 「・・・何か恥ずかしい・・・。今の生活の事で良い?」
 「ええで。特に異性関係を、な。」
 「くすくす・・・変な忍足君。」
 

 恭子は今の生活の事を話した。短大を出て、今の会社に就職し、単調な日々を送っていて、付き合っている人も居ない、という事などを。
 忍足は恭子の話を、ふんふんと相槌を打ちながら熱心に耳を傾けていた。


 「ね、私の事ばかりじゃなくて、忍足君の事も教えて?」
 「そやな。俺は――――――」
 恭子は忍足の話を聞きながら、昔も今もテニスに夢中な忍足の事を好きなんだなぁ、と実感した。


 そして恭子は決めた。告白をする事に。
 

 「あのな、頓田、実は俺、中学時代も今も、頓田の事」
 「待って。私に言わせて。・・・私・・・忍足君の事・・・えっと・・・昔から好きの。」
 告白を終えた恭子は、顔を真っ赤にさせ、うつむいた。


 「頓田、顔を見せてくれへんか?」
 恭子がゆっくり顔を上げると、直ぐ目の前に忍足の顔があり、唇が重なった。
 「!!」
 「これが俺の気持ちや。ずっとこうしたかったんや。俺は頓田が・・・恭子が好きや。中学以来、この気持ちは変わっとらん。」
 「忍足君・・・。」
 「侑士や。」
 「侑士・・・。」
 忍足が再び恭子にキスをした。



 2人の恋は、正に今、新たにスタートしたのであたった――――――――
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