文章
□ウエルカム トウ アナザーワン
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ねえ知ってる?
その線を越えてしまったら、もう二度と戻ってこれないんだってさ。
こわいよねえ。
:ウエルカム トウ アナザーワン:
差しのべられた手を、取ってしまったのはわたしだ。
例え、目の前の人物によって極限までに追い詰められた結果だとしても、わたしがここまで弱ることさえ嫌悪を覚えるような気味の悪い笑顔を張り付けているこの男の策略のうちだとしても、それすらきちんと順序立てて理解していたとしても。
一人にしないで置いてかないでと悲鳴をあげた自分に些かの陶酔があったのだ、なんて言い訳にもなりはしない。
まさかこいつが、ここまで追い詰めた相手に救いの手を差し出すだなんて思いも寄らなかっただなんて、不意を突かれたにしても愚かしい。
どんなに理由をこじつけても、自分のした行為には、責任が付いて回ることくらい、子供じゃない、疾うに理解していたはずだ。結局は自分でしたこと、という結果にしかならない。
なのに何故。
手を取った私に、無言で胡散臭いような慈しむような相反する性質の成分の入り混じった視線を向けるこの男は、何が面白いのか口の端が上がっている。
隠し切れていないのか、いっそわざとなのか。
長い沈黙は臨也が破った。
「ああなんて、可哀想な人なんだろう」
こいつなんて今すぐ死ねばいい。撃たれろ刺されろ頭でもかち割られろ。散々恨まれて呪い殺されてしまえ。
頭ではこの男の末期ばかりが浮かんでくる。どうせこいつはろくな死に方をしないに決まっている。ああいっそせめて、この世で一番悲惨な死に方をしてほしい。そうでもしないと気が晴れない。
でも、分かってる。
そうは言うがこの男が居なくなったらもう私には縋れるものさえ残されていないということくらい。
ぱたり、ぱたり。
表面張力を超えて決壊した涙は、重力に逆らうことなく頬を伝って顎先から床に落ちてゆく。
そう、分かってる。
この男の、血の通った生ぬるい温度の手を握り締めているのは紛れもなく、私の意志に他ならないことくらい。
そんなことくらい、もう吐き気がするくらいに分かってるんだ。
終。
100516
紀田が不憫でまだ18話が見れない
わたしが追い詰められてる(^p^)/