文章

□ブラックスノー
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その白さはこの世の例えられるなによりもふかいふかい白で、その白が、だんだんと黒くむしばまれてゆくさまを、どうして平然として傍観なんぞできようか!





;ブラックスノー:





カーテンから入り込む朝日がちょうど私の顔に注いだらしく、眩しさに目を覚ます。時計をみれば起きる予定の30分前という中途半端な時間だ。起きようか、二度寝しようか。というか寒くて出られない。

部屋の空気が、いつにも増してひんやりと冷たい。ここ連日は一段と冷え込んでいて、そろそろ今年初の雪が降るんじゃないだろうか。
いやだいやだ、電車は止まるしヒール履けば転ぶし靴は駄目になるし、そもそも太平洋側でぬくぬく育った私には東京ですら極寒だ。

寒くてシーツを自分のほうへ手繰り寄せると、視界にごそごそと動く肌色を捕えた。やはり寒いのか、静雄は眉間にしわを寄せ、少し唸って身を縮こまらせた。
ただでさえ寒い今日、上半身裸だなんて。昨日気だるいところを無理矢理にでも服を着せれば良かった。
もしかして起こしてしまったか。静雄にもシーツをかけてやると安心したような寝顔に戻った。その様子がなんだか無性に微笑ましくて愛らしくて思いっきり愛でてやりたくなった。

何度も脱色を繰り返して痛んだ髪を梳く。本当にいとおしいなあこのやろう。その行為を繰り返し、満足しベッドから出陣せねばと決心した。

朝日の射す隙間から、静雄が眩しくないようにそっと外の様子をうかがってみると、そこは、真っ白で、きらきらきらきら、光が乱反射していた。
いつの間にかあたりは一面雪で覆われていた。


「うわ…」


その壮絶な景色に思わず声が漏れた。いつの間に。いつの間にこんなに積もったのだろう。確かに昨日の夜の冷え込みは酷かったが。

まだだれも出歩いていないらしく、雪には足跡ひとつ見られなかった。
こんなにもまっさらな状態の雪をずけずけと踏む第一号は誰になるのだろう。雪掻きのおじさんかな、試験前だから早くから学校に行く学生さんかな、起きたらみたこともない雪が積もっていることにはしゃぐ子供やイヌかな。

それぞれどんな思いで真新しい雪に足跡をつけていくのだろうか。生活のため仕事のため綺麗な綺麗な雪に魅入られたため。綺麗で汚れのないものを汚す瞬間、人は何を思うのだろう。

そして、そんなまっさらな雪が平和島静雄というとても真っ直ぐな青年を連想させるのは難しいことではなかった。
喧嘩人形だなんて形容されてはいるが、彼はただ自分に素直で、そして純粋に真っ直ぐだ。
そんな静雄と恋人である私は、時に自分が酷く汚い気がしてくる。下らない嫉妬や自己満足の束縛、少しでもそんな気持ちを抱き、それを静雄が甘受する度に、私は綺麗な静雄を土足で踏み荒らしている罪悪感に苛まれる。
何故許すのか。綺麗なものに魅入られ、独占欲に屈し、自分だけのものにしたくてしたくてしたくて。罪悪感を感じながらも、また。


「うわ、すっげえな、これ」


意識が一気に現実に引き戻される。

気がつくと静雄が私の後ろに立って同じように外の景色を見て感嘆の声を上げていた。流石に上の服は着ていた。
いつもの寝起きのわるさはどこへらや、こんなに積もるなんて珍しい、と少年のように顔を綻ばせ、少し嬉しそうに言葉を続ける。
気分がいいのだろう、私に後ろ側から抱きついて肩口に顎を乗せ、おはよう、と顔を覗き込まれた。視線か絡む。


「おはよう、静雄。んー、すっごいねえ、き」

「すげえきれいだ」


きれいだといった静雄の顔が、ああやっぱりきれいで、わたしはそれ以上、静雄の顔を見ていられなかった。

窓の外では、いつの間にか、真新しい雪の上を、誰かが歩いた跡がつけられていた。




終。

100411

すみ、ません…意味不明すぎる

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