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□感謝の独り言
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「こんな所にいたのね、定春くん。」
白犬とゴリラが驚いて振り返った。
「お、お妙さん!」
「神楽ちゃんが心配してたわよ、さぁ帰りましょ。」
妙は近藤の声を無視して、白犬を促した。
犬は明らかに離れるのを躊躇っている。
妙は構わず、首輪を引いたが犬はビクともしない。
その様子を見て、近藤は苦笑した。
「またちゃんとイチゴ牛乳奢るから、今日は帰んな、定春くん!チャイナさんがすごく心配してるみたいだよ。」
犬は近藤と視線を交わすと、諦めたかのように尻尾を下げ、従順に妙について歩きだした。
私にはわかる。白犬はイチゴ牛乳につられてこの作業に参加しているのではない。
彼なりのプライドをもってして、手伝っているのだと…。
妙たちが去りゆく姿を見ると近藤は妙たちに背を向け、作業をまた始めた。
数歩先で妙は立ち止まる。
「真選組は殺伐とした人たちばかりよね、定春くん?」
「えっ!?」
弾かれたように近藤は妙を見た。
「だからお人好しのゴリラが大将なんだわ。」
近藤は話の意図がわからず、妙と白犬の会話を呆然と見ている。
「ゴリラのお人好しのおかげで、組の優しさが保たれているのよ。じゃなきゃ、本当に殺人集団だわ。」
白犬は同感!と言わんばかりに尾を振り、吠える。
「だから手に負えそうにないマヨラーやサド王子も、ついてきてるのね。」
「お妙さん…。」
「悔しいけど、あれだけの漢たちがあのゴリラの優しさや武士道に惹かれてついてきてる。大した集団だわ。ま、おかげで江戸の平和も保たれてるワケなんだし…たまには感謝しないとね。」
白犬は大きく尾を振る。
近藤はただ黙って立ちつくしていた。
「自分らしさを見失わず、がんばってもらいたいものね。あらやだ、なんて大きな独り言言ってたのかしら…私。」
白犬は妙を見て、微笑んだような顔をする。
「じゃ、行きましょうか。」
妙は顔をやや紅らめて、白犬と歩きだした。
近藤はその姿に一礼した。
「あ、姉御ォ!定春、見つかったネ。ありがとう、さすがは姉御ネ!」
チャイナ服の娘と白犬は戯れる。
「定春、勝手にでかけるなんてダメアルよ!皆、心配するネ。もうこれからは…。」
「いいのよ、神楽ちゃん!定春くんは立派なお役目を果たしてきてるのよ。」
「役目?」
神楽は呆気にとられた顔をした。
「そうよ、男同士の大切な役目。」
妙がチラリと白犬を見ると、胸を張って満足気な白犬は一吠えした。