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□太陽の笑顔
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「何でもないようにはちょっと見えないんだけど…もしよかったら話してみてよ。」
初対面なのに、そんないろいろ話せるワケないじゃない…。
「…プライベートなことですから…。」
「あ、そだね、ごめん…。」
でも不思議とこの男の笑顔は、その抵抗感を無くさせる気がする。
「とりあえず君がどうであれ、家に連れ込んだ責任あるから、自分の素性は明かしとくよ。俺の名前は近藤勲。仕事は…見ての通りホストをしてて、ここで独り暮らししてる。」
突然の自己紹介に面食らったが、少しでも私に打ち解けようとしてくれてるのだと感じた。
「わ、私は志村妙です。」
「志村…?」
「あの、何か?」
「あ、いや…べつに///。」
私は少し怪訝な顔をした。
「力になれないかもしんないけど、自分だけで抱え込まずに、気が向いたらいつでも話してよねっ。」
この男が信じるに値するかはわからない。でも…でも…あの太陽のような笑顔は偽物じゃない気がした。
正直戸惑いはある…でもそれ以上にこのまま自分だけで抱え込むのは苦しい。
私は意を決した。
「私の家はここからもっと行った先にある診療所なんです。」
「え?」
あまり唐突に話し始めたため、彼は明らかに面食らっていた。
でも私は構うことなく話を続ける。
「その診療所を営んでいた父が先日亡くなって、次の日から借金取りの天人たちがやって来て…。」
「借金…。」
「父が借金してたなんて知らなかったからスゴくショックでした。」
近藤の顔がみるみる真剣な表情になってきた。
「医学部に入学した弟の学費も工面できなくて、休学させちゃったし…天人たちは毎日取り立てにくるし、なんかバタバタで。」
妙の眼にまた涙が溢れる。
「来週までにお金が用意できなければ診療所兼自宅は差し押さえられるか、私が彼の営む店で働くか、選べって言われたんです。」
「お店っ…て?」
「……風俗です。」
ガタンッ!
机の上の物が、転けそうな勢いで揺れた。
近藤がものすごい勢いで立ち上がったのだ。
「なっ///、何だってぇ!?」
いきり立つ近藤を妙は呆気にとられながら見つめていた。
「私、父の大切にしてるあの診療所が好きなんです。弟も志してくれてたし、なんとかしたいんです。でもどうしたらいいのかわかんなくなって。」
ふと顔をあげると近藤と眼が合うが、先ほどの動揺と違い、今度は瞳の奥に切なさを帯びているように感じる。無論、私も同じような表情(かお)をしているのだろう。
「私がそこで働けば、診療所も取られないし、弟も復学できるかもしれない。」
「でもそのために君は!?」
「仕方ないですよ…女の私がてっとり早くできることなんて…このくらいしか…。」
私の瞳はまた揺らぐ。
近藤は立ち上がり、窓を開けた。
TV台の上にあるタバコを抜き、一本吸い始める。
その紫煙に巻かれた横顔が、さっきまでの無邪気な子供っぽさから一転して夜の世界に身を置く大人の男性を思わせる。
「借金、いくらなの?」
「え?」
「いくら奴等に請求されてんの?」
「3000万です。」
「ふーん…。」
「ごめんなさい、こんな身内の恥を聞かせてしまって…。」
「いや、いいよ。聞いたのは俺なんだからさ。」
彼はそう言いながら、優しく微笑んでくれた。
窓を閉め、ゆっくりと私に近づき立て膝をして私の傍らにしゃがみこむ。
「じゃあ、その診療所で俺を働かせてくれよ。」
「えっ?」
「君のお父さんの診療所を俺が買おう。俺はそこで働く。」
「だ、だって…診療所ですよ。働くったって…。」
「これでも一応、医学部卒なんだよね。」
彼はニカリと笑う。
「え、医学部?」