本文 1


□男は狼だから気をつけなさいィィィー
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暖かいなぁ…、なんだろう?心地いい感触に、僕はゆるゆると意識を戻し始めた。
視点が合い始めた時、上から声が降ってくる。
「よかった、気がついた。」
僕は近藤さんの肩に寄りかかっていたようだ。
「大丈夫かい?腹以外で痛い所はない?」
「だ、大丈夫です。」
僕たちは手足を縛られ、小さな窓のある部屋に監禁されていた。
「よかった…。」
身体を起こし近藤さんを見ると、青紫の痣が顔面に多数張り付き、血がにじんで腫れ上がった顔で僕に向けて笑った。
アンタの方が重症だろっ!
そうツッコミたかったが、僕のせいでこんな目に合った人に、物言う資格など僕にはなかった。

「さて、どうするかな?」
のんびりした口ぶりで近藤さんは軍靴の踵をいじり始める。
「誰か気づいてくれませんかね?」
「どーだろ?俺は午前様が多いからなぁ。トシや総悟、気づいてくれるかなぁ?お妙さんも仕事中だし、万事屋やチャイナさんも夜は新八くんとは別生活だからなぁ。確率は低いかも…ははは。」
こんな状況で、何とも緊張感のない返答をされてしまった。
「そ、ですよね…。」
…?さっきから何、隣でガサついてんの、この人?
見ると近藤さんは軍靴の踵から小さな刃物を引き出し、手首の縄を切っていた。
ってアンタ、ル○ン三世かよっっ!!
「こ、近藤さん、どこからそんなもの?」
「まぁ、俺たちの立場上こういうことは多いからね、特に俺は…。
だからそれなりの装備は要るわけよ。よし、切れた。」
手足が自由になった近藤さんは素早く僕も解放し、ドアに聞き耳を立てる。

「見張りは両サイドに1人ずつか…。その2人だけが乗り込んで来てくれたらありがたいんだか…。」
そう言うと反対側に歩き出し、小窓から外を眺める。
「ここは大江戸埠頭だな。ターミナルがこの角度で見えるとするなら…差し詰め7、8、9番あたりだろう。」
あれ?この人、普段はオチやイロモノにその才をあますとこなく発揮するタイプの人なのに…こんなタイプの人だっけ?
目の前でこの状況を冷静に分析しているこの人が、姉を追い回すあのストーカーなのっ!?
僕はひどく困惑した。

「とりあえずここから出なくちゃな。新八くん、協力してくれ。」
「あ、はい。」
戸惑いながらも僕はそう返答した。



「近藤さん、どこ行くんですか!一人で逃げるなんてズルいですよっ、ちょっとォォ!
アンタそれでも真選組の局長なんスか!?」
僕の声に気づき、鍵を開ける音がする。
「おい、うっせーぞガキ。」
ドアが開いた。
「だってぇ、近藤さんが1人で!」
僕が泣き顔でそう言うと、見張りの1人が部屋を覗き込む。
「お、おい、中に近藤がいねぇぞ。」
「バカな、あんな小せぇ窓からあんな大男が抜けられるわけねぇだろ!」
慌てて2人とも入ってきた。
と同時にドアが閉まり、近藤さんの蹴りと手刀受け呆気なく地面に倒れ込んだ。

「演技派だね、新八くんは。おかげでなんとも古典的なやり方であっさりかかってくれたよ。」
近藤さんは2人の腰から刀と鍵を抜き取った。見せかけで結んであった僕の縄を解くと、抜き取った刀の刃を眺めてから一本だけ腰に納めた。
「まずここから出てコイツらは閉じ込めておこう。」
「刀、一本だけ持って行くんですか?こっちは?僕も持ちます。」
近藤さんは僕の握った刀を見つめ、その後僕の顔を見つめた。
…?
「そいつの手入れは最悪だ。それじゃ、酢昆布も斬れんよ……。まぁでも、脅しがわりにはなるか。」
そう言うと、僕の腰にその真剣を納めた。
「本当は君に人斬りのマネはさせたくない。」
「えっ?」
「さ、バレないうちに逃げよう。」
表情を見せないまま、近藤さんは僕に背を向けドアを開けた。
鍵をして、僕らは走り出す。
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