本文 the シリーズ

□諧謔曲 ースケルツォー
1ページ/3ページ




気に喰わない同期がいる。


なんでも私より格下の大卒なのに、仕事は何かしらできて、上司、周囲の受けもよく、いつの間にやら人が集まる。

不思議な漢だ。




【諧謔曲 ースケルツォー】






何を考えているのか分からないような飄々とした立ち居振る舞い。


私も何を考えているのか分からない、とはよく言われるが、彼とは質が違う気がする。








「近藤、これまとめて次の商談に使えるものにしといてくれ。お前、今、どこ、あたってる。」



「あぁ、ハイ。俺は央国商事を。」



「え!?えらく大手あたってるんだな。でもあそこの御曹司、大丈夫か?」




「まぁ、御曹司はあんま期待できませんが、幹部はもう押さえてあるし、御曹司はなんとでも。」




「そこの商談、成功したらかなりのもんになりそうだな。がんばれよ!忙しいとこ、悪いけど頼んでいいか、これ?」



「あ、大丈夫っす。ちょうどこれも見直したいと思ってたんで。」



彼は別の資料をヒラヒラと振った。



「よろしく。」




上司の背中を見送ると、すぐさまPCに向かい、資料の修正をしつつ、どこかへ電話を始めた。







終業時間となるが、彼はまだ帰る様子はない。




「近藤くんは、残業?」



私に声をかけられ、彼は驚いた表情を見せた。



「あぁ、残業ってほどじゃないよ。これ、少し打ち直したら帰れる。」



そう言って、資料をひらつかせる。


そして、急に優しく笑った。


その顔を見て今度は私が驚く。




「な、なんですか?何か、しました?」




「いやぁ、佐々木くんに声かけてもらうなんて、光栄だなって。」



「光栄も何も、同期なんだから…。」



「でもさ、俺みたいなタイプは苦手でしょ?」



え?


一瞬、不意を突かれたため声にならなかった。



「あ、俺、失礼なこと言ったね。ごめん、気にしないで!またよかったら今度、一緒に飲みに行こうよ!」




気持ちを見透かされたような…。

できる、いい子でいようとする自分の汚い本音を悟られたような気がした。



だからこの漢に油断はできない。





何か言い返そうと思ったその時、大慌てで一人の先輩が駆け込んできた。




「ど、どうしよう!やべぇ、時間ないのに…どうしたら。」



頭を抱え、困惑している。

何をやらかしたんだ?
まったく…。



冷ややかな目で見ていると、隣の漢が立ち上がり、彼の傍に駆け寄る。





「どうしたんすか?」




「商談のための接待する予定だった料亭に連絡したら予約されてない、とか言われてさ。オレ、確かに事務の子に頼んだんだぜ!なのに…。接待19時からだしよ、今からじゃどこに頼めばいいのやら。あぁ、どうしよう!」




彼はしばらく考え込むと、携帯からどこかへ電話し、話し込む。




「だからそこをなんとか、頼むよ、金さん!ね?そういうけだからさ、伯母さんとこ、都合つけてよ。わかってる、て、今度、あ、うん。阿伏兎にも言うし、なんでも弾くから。そ、19時。頼む!」


電話を切って、数分後折り返し携帯が鳴る。




「あ、ほんと!助かった。うん…さすが金さん!マジ助かるわー。ちょっ、ちょっと待って…。」



彼が話を切り、件の先輩に声をかける。




「先輩、何人くらいで予約いります?」


彼の声に、俺たちは驚いた。



「え?なに、近藤?予約って?」



「知り合いの知り合いの料亭なら押さえられそうなんです。人数、教えてもらえますか?」




「あ、6人なんだけど…。」



「6人だって。大丈夫?あ、サンキュ。じゃあ19時ね。」



電話を切ると、先輩に向き直る。




「えっと、あの…料亭「お登勢」てわかります?」



え!?
なんだって?



「えぇー、お登勢って、あの、予約困難の高級料亭の!?」


「予約困難だったんですね。でも、ま、とりあえず取れましたから、19時6人で。坂田で行ってもらえます?」




「ほ、ほんとかよ?嘘だろ?なんで、そんなすげートコにコネクションあんだよ、お前!」




「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいんですよ。でも、これ、接待費落ちますかね?」



「あぁ、商談まとめりゃ。」


「じゃ、がんばってくださいね。早く先方に場所変更の連絡入れないと!」




「あ、あ、そうだな!ありがとよ、近藤。この礼はまた必ずすっから!」




「商談成立したら、オレにもなんか紹介してください!」



先輩は笑顔で先方へ電話を始めた。


彼は静かに自分の席へ戻る。




「大したコネクションですね。」



「いや、たまたまだよ。」



彼は苦笑しながら、資料に目をやる。




「たまたまで使えるようなお店ではない、と思いますが。」


「いや、ほんと、たまたま。知り合いの身内だからさ。」



「ふーん。」



「佐々木くん、帰んなくていいの?」



この漢、まだまだいろいろ持ってそうだな。

私は彼をジットリとした瞳で見た。



「な、なに!?」




「私が困っても、助けてくださいね。」



彼の肩を叩くと、私は職場を去った。



















次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ