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□夜想曲 ーノクターンー
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「今、何時ですっけ?」

「朝の8時かな?」


「出勤前のお忙しい時に、すいません。」


「こっちこそ、なかなか連絡取れなくてごめんね。」


「いえ。ニュ、ニューヨークのお天気はいかがですか?」


「あぁ、快晴だよ。」


「そうですか。日本は最近雨続きですよ。」


「へぇ、そうなんだ。」


「こないだなんか、おりょうちゃんと買い物にでたんですけど、降られちゃいました。」



「ははは。そっか、あ、そろそろオフィスに着くから…また。」


「あ…。」



「…え、なに?」


「いえ…。」


「そう、じゃあ、おやすみ。よく休んでね。」


「はい…。ありがとうございます。お仕事、がんばってくださいね。いってらっしゃい。」


プツリと電話は切れる。

えもいわれぬ虚無感に苛まれた妙は、ため息をつき缶ビールをあおった。








【夜想曲―ノクターン―】






近藤がアメリカ出張に出てもう2月経つ。
当初は2週間の予定が3週間になり、1月になり、今に至る。
忙しいのはわかるが、時差もあってかすれ違いが多く、肉声もなかなか聞けない生活だ。
近藤の性格から妙を気遣って無茶な時間に連絡を入れてくることはない。

それが妙にとっては余計に淋しく感じた。



……なんだか、私ばっかり好きみたい…。




ビールの空き缶をテーブルに置くと、妙はさっさとベッドに入り、ふて寝した。











「妙、なんかあった?」


「なーにーが?」


妙の眼を見て、おりょうは後ずさりする。

「いやー、何って…なんか負のオーラが出まくりだからさ。」


「別にぃ。」


「そ、そう?そいや、部長の出張、かなり長期だもんね。」


ギロリとおりょうを睨むと、おりょうはギクリとした。


「あ、で、でももうすぐ帰ってくるんでしょ?」


「知らないわよ。ろくに話もできないんだから!」



「そっかぁ、そりゃ辛いね。よし、ランチ奢るから、元気だしなよ!」


おりょうは景気よく妙の背中を叩いた。







午前中の仕事が押し、遅めにランチを開始すると、社員食堂は空いており、昼ドラが流れていた。

おりょうの愚痴を聞きつつ、妙はぼんやりと昼ドラを見た。



夫が出張先でオンナをつくり、淋しくなった妻が数年ぶりにあった元カレに迫られ、堕ちていく内容だった。


……まさか、オンナなんていないわよね?



妙の脳裏にブロンド美女がかすめる。



近藤さんは日本じゃモテるタイプじゃないけど、ガタイもいいし、背もあるし、仕事もできてワイルドだから、海外なら…。



ブンブンと頭を振った。











コンコン。

海外事業部の扉を開ける。


「んあ?なんだ、なんか用か?志村妙。」


近藤の右腕・土方に声をかけられる。


「あ、あの…近藤部長の出張っていつくらいまで…?」


「まだ、当分は帰ってこれねぇだろうな。」


…!?


「ちょうど今朝、プロジェクトチームからメール来て、ほら。」


メールには写真が添付してあり、近藤をはじめ、10人ほど外国人が共におさまっている。


「コイツが今回の取引先のオーナーなんだが、そのプロジェクトチームと意気投合して、次の契約につながる話が持ち上がったらしい。」


契約取りつけに意気揚々と土方は話を進めるが、妙の視線は写真の中で彼の腕をとり微笑むブロンド美女にクギヅケだ。




「…だからまだしばらくは無理だろな。アンタも彼女なら近藤さんの労をたまにはねぎらってやれよ?」


妙は恨めしそうに土方を見ると、そそくさと部屋を出る。



「そうします。お騒がせしました。」




「土方さんも人が悪いなぁ…。」

「なんだよ、総悟。」


「あのオンナ、相当まいってますゼィ。」


「知ってるよ」


「うわ、俺以上のドSだ。」


「ちげーよ。近藤さんは人がよすぎる。今までそれで痛い目みてきただろ?今や世界を渡り歩くようなオトコ。そんなオトコを相手にしてんだ。こんくらいのことで動揺するオンナなら、長続きする必要ねぇんだよ。」



「まぁ、そりゃそうですけども。」












「じゃあね、お妙。」


仕事が終わり、会社の前で親友と別れ妙は帰路に着く。



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