本文 the シリーズ
□即興曲 ーアンプロンプチュー
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絶対認めない!
どんなヤツかは知らないけど、姉さんを守るのは僕の役目。
聞けばかなり歳上らしい。
そんなオヤジに姉さんは任せられない!
きっと父さんが亡くなったから、憧れが強いだけなんだ。
そうに違いない!
そう言い聞かせ、新八は眼の前のビルを見上げた。
【即興曲 −アンプロンプチュ−】
自動ドアが開くと、キレイな受付嬢と眼が合う。
一瞬ドキリとして、顔を紅くした。
受付嬢がクスリと笑う。
新八は咳払いして、いずまいを正すと、受付嬢の前に勇み出た。
「あの…すいません。」
「こんにちは。どうされたました?」
「海外事業部の近藤って方にお会いしたいんですが…。」
受付嬢は一瞬驚き、彼を舐めるように眺めた。
「近藤部長ですか?失礼でございますが、アポイントは?」
「えっ!?あ、アポイント…?」
「お会いになるお約束などございましたか?」
「あ、いえ、それは…なくて、えっとぉ…。」
新八はモジモジして、俯いた。
「失礼ですが、お名前は?」
突然、後ろから男性に声をかけられる。
振り向くと、ガタイのいい長身のサラリーマンが立っていた。
品のある、優しい感じの漢だ。
「し、志村…志村新八と言います。」
眼の前の男性は眼を丸くし、受付嬢は、ハッとして尋ねた。
「志村って、まさか情報管理部の志村さんの?」
「え、は、はい。弟です。」
「志村さんの弟さんが、俺に何の用なのかな?」
「……俺…?」
ジッと互いに眼を見てから、新八はハッとした。
まさか…?
「この方が海外事業部の近藤部長ですが。」
彼らの間を割るように、受付嬢が長身の男性を紹介した。
「はじめまして、わざわざ俺を尋ねてみえるなんて。どういったご用件だろう?」
そっか……そうだよね。
新八はいわれもしない敗北感を感じた。
でも…。
「突然で申し訳ありません。でもお願いしたいことがありまして。」
新八の真剣な表情に、近藤は優しく微笑んで背中に手を置いた。
「わかった。話を聞こう。」
新八は彼に誘われ、エレベーターに乗り込んだ。
「おはよ。」
「おぅ、近藤さん。おは……あぁ?」
海外事業部と書かれたプレートのかかったドアを開けると、部屋の中にいた男たちが各々に、近藤へ声をかける。
その後、新八を見て眼が点になった。
「近藤さん、ソイツ誰なんでぃ?」
亜麻色の髪の男が言い放つ。
「あぁ、知り合い。さ、どうぞ。」
近藤は隣の部屋へ新八を案内した。
「トシ、ちょっと野暮用あるから、あとは任せた。」
「…おぉ、わかった。」
「…で、ご用件は何だろう?」
近藤は机上に鞄を置くと、背後の新八に話しかけた。
「単刀直入に申し上げます。姉と別れてください。」
彼の身体が一瞬、ピクリとする。
そしてゆっくり振り返って、新八を見た。
「唐突だな…。」
彼は苦笑した。
大人の余裕さえ感じる。
新八は胸の奥に黒いものを感じた。
「あんなステキなお姉さんに、俺みたいなオヤジはよろしくない、てトコかな?」
…わからない。
でも純真無垢な姉に、こんな大人な男性との恋愛なんて、無理に決まってる。
父さんへの憧れだけで、我を忘れてるんだ。
だから、姉さんが傷つく前にやめておいた方がいいに決まってる!
「姉はあなたにふさわしくないです。」
彼は嘲笑して、アゴヒゲをさすった。
「そうかな?どちらかと言うと、俺がお姉さんにふさわしくない、て言いたそうに見えるけど?」
新八はハッとして近藤を見た。
「そ、そんな…ことは…。」
「なんにせよ、彼女がそうしたいと言うのなら考えるが、君単独の意見ならば参考程度に聞かせていただいておくよ…悪いね。」
ガチャ!
扉が突然開いた。
「新ちゃん!!」
叫び声と共に志村妙が飛び込んできた。
「ね、姉さん!?」
「し、志村さん!?」
妙はすぐさま新八に駆け寄る。
「新ちゃん、こんなとこで何してるのよ!」
「え、あ、それは。」
「志村さん、いや、これにはね…。」
「新ちゃん、アナタ大学は?なんでまた…こんな…。」
妙は近藤をチラリと見た。
新八の胸にまた黒いものがわく。
…イラつく。
「この漢(ひと)と別れてもらおうと思って。」
「な、何言ってるの!?」