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□露ときへて。
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真選組局長・近藤勲の部屋の明かりが夜分遅くまで灯っている。
仕事熱心なように映るが、この哀しい独身男性の実態は、古今東西の二次元娘を落とすことに勤しんでいるだけという現状であった。
【露ときへて。】
久々に新作ソフトが出たので、行きつけのキャバクラにも行かず夜を明かした。
赤紫の朝焼けに気がつき、障子を開け、廊下に出た。
「あらら…夜更かししちゃったなぁ…。まぁいいや。」
廊下の先にある監察の部屋の障子が開いているのを見つけた。
ここ最近、とある連続変死事件を追い、山崎は連日出払っているらしい。
帰ってきてるのか…?
近藤が部屋を覗くと、室内には先ほどまでいたかのような痕跡はあるが、すぐ発ったのか誰も居なかった。
机の上に眼をやると、CD-Rが数枚置いてある。
ザキも大変だなぁ…。
CD-Rを手に取りパッケージを眺めると、近藤はニヤけた。
「近藤さん、なんか…最近疲れてないか、アンタ?」
「そっかな…特には?」
「姐さんとこにも行かず、二次元に勤しんでるみたいですねィ。」
「ちょっと総悟くん、なんかそんな哀しい言い方しないでよォ!」
「嘘は言ってねぇでしょ?」
「いやぁ、まぁそうだけど…。」
「まぁ、あの凶暴女より二次元の方がアンタを癒すにはいーんじゃねぇの?」
「トシまで!」
そこには和やかに屯所の昼下がりの風景があった。
数日後、土方はまた近藤と昼食が一緒になった。
「近藤さん、やっぱアンタ、体調悪いんじゃねぇの?」
明らかに近藤は先日よりも痩せこけ、その表情は虚ろである。
「そうかなぁ?まぁ食欲はあんまりないけど、特に変わってないよ…あぁゲームのやりすぎで寝不足気味かな?」
確かに寝不足様の表情ともとれるが、どちらかというと窶(やつ)れていると言った方が的確なような気がする。
本当に最近は、あの凶暴女の所にも行かず、ゲーム三昧のようだ。
「ゲームのやり過ぎもホドホドにな。」
「あぁ。」
疲れた顔で、近藤は苦笑いをした。
「土方さん?近藤さん、またゲームやってんのかまだ起きてますゼィ?」
「あぁ?またか……あんなにまでなってもしたいもんかねぇ?…仕方ねぇ、ちょっと行ってくるか。」
土方と沖田は連れだって局長室を訪ねた。
「開けるぜ、近藤さん。」
障子を開けると、パソコンの画面は光々と点いているが、当の近藤はパソコンの前にうっぷしている。
「何だよ、寝るくらいならはじめからやんなよな…。」
呆れ顔の土方をよそに、沖田は近藤に近づいた。
「近藤さん、近藤さん!こんな寝方したら、風邪ひきますゼィ。」
近藤の肩を揺らしていた沖田の表情が険しくなる。
「土方さん、なんか変ですゼィ。」
「?」
土方も近藤に近づいた。
近藤は寝ていると言うより、昏睡しているようにとれた。
「近藤さん、オイ!近藤さん、しっかりしろよ!総悟、隊医を呼べ!」
「ヘィ。」
慌てて隊医に召集がかけられた。
「原因は全くわかりませんが、かなりの衰弱と意識障害が見られます。局長、どうされたんでしょうか?」
隊医は首をかしげるばかりである。
「それを調べんのがてめえらの仕事だろ!とっととやりやがれ!」
鬼の副長が一喝を入れた。
「にしても、近藤さんほどの人が、何でこんな数日のうちに衰弱なんて…。」
「あ、副長、ここにおみえでしたか。」
局長室で近藤を挟んで座り込んでいた土方と沖田のもとに、山崎がやってきた。
「あれ?局長、どうされたんですか!?」
「なんかわかんねーけど、だいぶヤバいらしい。」
「え゙ぇ゙っ!な、なんで急に!」
驚いた拍子に、山崎の視界に近藤の机の上の物が入ってきた。
慌ててそれを手に取ると、山崎の表情がこわばった。
「……局長…まさかこれしちゃってたんですか?」
「なんだよそれ?」
土方と沖田は、山崎の手の中にあるソフトを覗き込む。
「最近、俺が洗ってた事件に関連してるブツですよ。局長ったら、いつの間に持ち出して!」
「どういう意味だよ?」