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□ホタルノヒカリ
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姉上が亡くなって2年が経った。
気にしてないつもりだが、命日が近づくとなかなかそうもいかず、別れ際にああ言われたものの、やっぱり募るは自責の念。
姉上…元気にはしてますが、どうもやりきれねぇでサァ。
【ホタルノヒカリ】
今日は朝から雨で、テンションは下がる一方だ…。
まぁ土方さんからかうと、少しは元気も出らぁ…。
昼過ぎに雨は止んだが、曇天の下、市中の見回り終えて屯所に戻ったのは夜だった。
少し湿気を帯び、お世辞にも清々しいとは言えない日だ。
屯所の縁側では近藤さんが柱に背中を預けて、庭を眺めていた。
天気もよくねぇし、星も出てないのに何してんだ、うちの大将は?
不思議に思い問いかけてみる。
「近藤さん、何してるんでぃ。」
「んあっ、総悟。お疲れ。仕事終えてきたのか?」
「えぇ、まぁ。それより…。」
「あぁ、ちょっと考え事。総悟は最近どうなんだ?」
「え、別に。」
「そっか……なんか疲れてるっちゅうか、元気がない気がしたから。」
胸が傷んだ。
とぼけたフリして、的をついてくる。
なんて人だい、アンタは…。
「大丈夫でサァ。」
笑顔を作ると、近藤さんの口の端が上がった。
「嘘つけ。しんどいくせに…。」
そう言われ俺は驚いて近藤さんを見ると、近藤さんは俺と視線を交わすことなく立ち上がり、庭へ降りてきた。
「総悟、ちょっと付き合えよ。」
「は?」
「いいから…。」
「へぇ。」
何が何だか、よくわからないがとりあえず近藤さんについていくことにした。
警察車両に2人して乗り込み、近藤さんはいつもの河原沿いを走る。
「ミツバ殿に逢いたいんだろ?」
「は?」
何を藪から棒に…。
「何言ってるんでサァ、近藤さん。おらぁ、もうガキじゃねぇですゼィ。」
「お前はガキだよ。俺もだけど…。」
近藤さんはニヤリと俺を見た。
「逢いに行こうぜ、ミツバ殿に。」
「墓参りなら先週行きやした。」
「墓じゃねーよ。」
「じゃあ何処へ?」
「まぁ、着いてからのお楽しみ。」
しばらくすると、近藤さんは河の上流で車を止めた。
「はい、到着!」
「?」
特に何もない河原だ。
2人して車を降りると、大江戸ターミナルが遥か彼方に見える。
「星が見えてきたなぁ。」
ターミナルが遠くなり、ネオンの光が減ったことで星がキレイに見えた。
「近藤さん…まさか星が姉上…なんてベタなこと言うんじゃねぇでしょうね?」
「違うよ。いいからしばらく待ってなって。」
そう言って近藤さんは車のボンネットに座った。
なんなんだ?
この人は本当に掴み所がねぇよ。
しかし星空を見上げると、幼い頃、近藤さんに肩車をしてもらいながら4人で星空を見た時のことが脳裏をめぐった。
しばらく静かな時間が俺たちの間に流れ、俺はしびれをきらして近藤さんの方を見た。
「近藤さん、なんなんでサァ。姉上に、どうやって…。」
近藤さんの回りを小さな光が浮遊していた。
「……ホタル?」
近藤さんは何も言わず、手に止まったホタルをいとおし気に見ながら、俺に笑顔を向けた。
「おらぁよ、母上が亡くなった時、父上に星が母上だと教えられた。そのあとすぐに父上が亡くなったから、2人とも星になっちまったことになるだろ?。でも、星って遠いんだよな。見えてるのに手が届かない。それってなんか哀しくない?」
近藤さんはまたホタルに視線を戻した。
「だから俺は…七夕じゃねぇけど、この季節だけこうやって空から星が降りてきてくれてるんだと思ってる。」
「近藤さん…。」
「だってさ、わざわざ…ほら、こうやって傍まで来てくれるだろ?…総悟もやってみろよ。」
俺はそう言われ、半信半疑で近藤さんのように手のひらを宙に浮かせてみた。