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□男は狼だから気をつけなさいィィィー
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僕たちの国が侍の…ってオイィィィィー!!!
呑気に始めてる場合じゃないんだよっ!
ヤバいよっ、こんなハズじゃ、こんなハズじゃなかったのにィ!


【男は狼だから気をつけなさいィィィー】

皆さんこんばんわ、志村新八です。
今の状況を簡単に説明しますと、追われています。そこを全力で逃げてます。
しかも1人で…。
あ、でもさっきまでは2人でした。
ちなみにそれは、わりと頼りになる銀髪天パのあの上司とではありません。
こともあろうに最愛の姉「志村妙」をしつこくつけ回す自称ハンター(世で言うストーカー)のチンピラ警察真選組の局長・近藤勲氏とです…。



事の起こりは数時間前。
スナックでアルバイトをしている僕の姉「志村妙」に忘れ物を届けに行ったことから始まりました。
任務を終えた帰り道、姉の接客(←暴力)を受け、リップサービス(←罵声)と共に送り出されたその男の背中を見かけたんです。

先に角を曲がった彼の背中を、別の角から何人かの男たちが追いかけて行くのが見え、僕は気になり更にそのあとを追ってしまった。…これがいけなかった。

同じ角を曲がった先で、予想通り十数人の物騒な連中に囲まれている近藤さんが目に入った。おそらく攘夷浪士だろう。しかも数がじわじわと増え始めている…。

「近藤…仕事中に女の所に通うなど、この国も腐りきったものだな。」
「いや、仕事は終えてきたさ。時間がないから着替えずに行っただけ。」
緊迫した空気の中、その中心に立つ長身の大男だけは飄々としていた。
何、アンタ敵に素で返答してんのっ!この人たち、アンタの命狙ってきてんだよっ、殺す気満々なんだよっ!

「幕府の狗め…腑抜けたことをっ!その首は貰い受ける、成敗してくれるわっ!」
数人の男が抜刀し、構える。
雲の切れ間からほんの少し覗いた月光で、僕たちの周りは照らされた。各々の刀が鈍く光る。

「俺の首に値打ちがあるとは思えねェが…おいそれとはやれねェよ。…只でさえお妙さんに会うの大変なんだからよ、首無くなったらますます会いづれェじゃん。」
いや、姉上限定じゃなくても会いヅラいから…。てか首ない時点で人と会える状態じゃないからっ!
「また女の話か…、どこまでも我等を愚弄しおってェェ、覚悟しろっ!天誅ゥゥ…!!!」
首領らしき男の声を皮切りに、周囲の浪士たちは近藤さんに斬りかかった。
こ、近藤さんっ!!

それは一瞬だった…。
鈍い光の中に一筋の美しい光が彼の周囲を一周した。浪士たちの刀は振り下ろされることなく、端からバタバタと倒れていく。
虎鉄Z-Uの鐔(ツバ)がカチャリと鳴った。

「やめておけ。無駄な殺し合いは何も生まない。」
「…くぅっ、何をォ…。」
す、スゴいや、近藤さん!
敵と対峙し、緊迫した光景を離れて見ていた僕は少し安堵した。
「何を見てやがる、小僧?」
…!?
振り返ったと同時に僕の喉元にヒヤリと刃(は)が当てられた。
しっ、しまったぁ。

「近藤、形勢逆転だな。刀を捨ててもらおう。」
こちらをゆっくりと見た近藤さんの眼が、見開かれる。
「新八くん…。」
「こ、近藤さん…すいません。僕…ぅくっ!」
髪を捕まれ、顔を上げさせられると、喉元の刃が少し僕の表皮を傷つけた。

「余計な話はいいんだよ、さぁてお優しい局長殿どうする?いたいけな市民の命を粗末にはできんよな?」
月が雲に隠れ、刀の光は消えた。誰の表情も見て取れなくなる。
そこに刀を地面へ投げ捨てる音だけが響いた。

「好きにしろ。」
近藤さんっ!
「だが彼は関係ない。放してやってくれ。」
鼻で笑う浪士たちが、近藤さんを殴りつけ、蹴りを喰らわす。地面に倒れ込んだ近藤さんの髪を引っ張り、邪な笑みを浮かべながら言う。
「だからてめェは甘ちゃんなんだよ…。切り札はとっとかねぇとな。」
「こんどーさ、っ!」
叫んだ僕の下腹部に拳が入る。
「新八くん!やめろ、その子に手を出すな!」
周囲の浪士により近藤さんは殴られ、蹴る音が容赦なく降り注ぐ。その音を聞きながら、僕の意識は遠退いていった…。
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