短編集

□雨の日曜日
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「詩織?詩織ってば」

和哉さんに呼ばれて。
私は彼に視線を戻した。
窓の外の雨模様から。

「なに?」
「何じゃないだろう?やる気がないなら止めるよ」

あ…

少し眉を寄せて。
私を見る和哉さん。

「…ごめんなさい」

私達は今、彼の部屋で勉強をしていた。
私が。
チンプンカンプンな数学を、彼に教わって何とかしようと、頼みこんだから。

「別に、僕は構わないけどね」

和哉さんは苦笑いを浮かべる。

「でも、テストでまた赤点を取ったりしたら、困るのは詩織なんだよ」
「……」

淡々(たんたん)と諭(さと)されて。
私は黙り込んだ。

分かってるもん。
だから、教えてもらいに来たんだもの。


‐……


音のしない雨の気配。

しとしとと。
霧の様な雨が、どんより灰色の空から降ってくる。


「あーあ、何だか憂うつ」


つい。
私は、ぼそりと呟いた。

重たい空も、数学も。
先生の顔した和哉さんも嫌い。

そりゃあ、私から頼んだんだし。
和哉さんはホントに先生なんだから、仕方ないけど。
二人きりの時くらい、何か、もっと、こう…。


「不満そうだね?」


すると頭の中を、ズバリと言い当てられて。

「そ、そんなことないです」

私は焦ってニッコリした。

「僕の講義は面白くないかい?」
「ううん、そう言うコトじゃないんだけど」
「じゃあ、どう言うこと?」
「……」

言える訳ないじゃない。
もっと普通に…ラブラブしたい、なんて。


「…何か飲むかい?」


うつむいてシャーペンをいじっていたら、彼が立ち上がった。

「今日は、勉強はこれ位にしとく?」
「うん」

私は頷(うなず)いた。
何か集中できないし。


……。


キッチンに消えた和哉さんを。
待ちながら窓の外を眺めれば、くすんだ色の木々。
渋い日だなぁ。
和哉さんにピッタリの天気って感じ。

静かに降る雨は、和哉さんみたいに穏やかで。
植物も建物も。
中に居る私も、すっぽりと包み込む。


「お待たせ。詩織はココアでいいよね?」


コトンと、テーブルにカップが置かれた。

「うん、ありがと」

言いながら。
手を伸ばしカップを持つ私。

こんな肌寒い日には、嬉しい飲み物だけど。

少し複雑。
子供扱いされてるみたい…

「…ん?」

彼が口を付けるカップを。
じっと見つめたら、和哉さんが私を見た。

「何だい?」
「それ飲みたい」
「……」

少し沈黙してから。
和哉さんは、自分のカップを私に差し出した。

「苦いよ?砂糖もミルクも入れてないし」
「ブラックコーヒー、好きだもん」

…それは知らなかったな、と。

ブツブツ呟く彼からカップを取り上げて。
代わりに私はココアを渡した。
和哉さん特製の、ミルクたっぷりの甘ーいホットココア。

「……」

彼の途方に暮れた顔をシリメに。
私はゴクゴク、奪ったコーヒーを飲んだ。

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