Novel
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そんな悶々とした日々を過ごし、
おれは毎日目の下に誰が見てもはっきりとわかるくらいのクマをつくり、ルフィはもとよりマルコたちにも心配されていた。
本当の理由は口が裂けても言えねェから、勉強のしすぎかもなとか言ってごまかしていたが。
そんなある日、校内の一角にて、おれはクマの元凶に遭遇した。
「あれ、ルフィのあに・・・いや、エース先輩じゃないですか。どうも」
そう。
サンジだ。
「・・・どうも」
やばい。
こいつと口をきくのは初めてだが、どうも穏やかでいられそうにない。
殴りてェとは思っていたが、
いざ本人を目の前にすると湧き上がってくる苛立ちを抑えるのに精一杯で、とてもそれどころではなかった。
いろいろ思うところはあるが、
ここはさすがに年上として、また兄貴として落ち着いて常識的に振舞うべきだと判断した。
まだ理性のほうが勝っていたということだろう。
・・・・・この時点では。
適当にいつも弟が世話になってるだのなんだの、さっさとあいさつを済ませて立ち去ろうと思っていると、
不意にそいつが言った。
「そういえば、先輩もモーダちゃんと仲がいいんですよね」
その瞬間、おれはさっき自分の中にあると確認したばかりの、
なけなしの理性が吹っ飛んでいくのを感じた。
「・・・・・ああ、そうだけど」
だからなんだ。
挑発してんのか。
勝手にちゃん付けで呼んでんじゃねェよてめェ。
きっと今のおれは、バジリスクのごとく人を視線で殺せるんじゃないかと思うほど冷たい眼をしているに違いない。
その証拠に、おれが目線を遣ると、サンジは気圧されたように身体ごと一歩引いた。
が、それは一瞬のことで、やつは即座に体勢を立て直すと
「いやあ、このあいだモーダちゃんといっしょに買い物に行ったんですよ。彼女、ものすごくいい娘ですね。明るくて、屈託がなくて」
「・・・・・・・・」
お前に言われんでも、そんなことはわかってる。
そういう意味を込めた目でにらむ。
きっとこれ以上はないというほどの殺気を放ってるんだろうな、おれは。
それに気づいているのかいないのか、サンジはのうのうとこう言った。
「今度ぜひまた、モーダちゃんを誘ってみようと思うんですよ。このあいだ、彼女の指輪のサイズも聞いたんでね。・・・・・・そういう意味を込めて」
前言撤回。
おれの放つ殺気には、まだ上昇する余地があったようだ。
いや、むしろ限界なんかないのかもしれない。
「じゃ、そういうことでおれは失礼します。モーダちゃんによろしく」
おれが自分でも無意識なうちに拳を固めたのに気づいたのか、
サンジはさっさとその場から姿を消した。
追いかけてでも殴ってやりたい気分だったんだが、
そこはさっき吹っ飛んだ理性をかき集め総動員して抑えることに成功した。
だが、怒りは簡単にはおさまらない。
振り上げるべき対象を失った拳を、ダンッ!と壁にたたきつける。
「・・・ちくしょうっ!!」
出てくるのは、情けない言葉だけ。
そんな今のおれは、いったいどれほどまでに情けなく見えるんだろうか。
その頃、サンジは―――――
「ふー・・・・・容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、紳士で人当たりもいい完全無欠のエース先輩が、あそこまで取り乱すとはねえ。珍しいもんが見れたぜ」
「おう、サンジ!いま帰りか!?」
「お、ルフィ。・・・あー、なあ、先に謝っとくが、今日家に帰ってお前の兄貴の機嫌がどん底に悪かったとしたら、そりゃおれのせいだ。悪ィ」
「エースが?お前、なんかしたのか?」
「いや、ちょっとばかり歯がゆかったんで、ハッパかけちまってな」
「葉っぱ?木の下で遊んでたのか??」
「さて、どうなることやら・・・・・」
「???」