Novel

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「なあモーダ、今日どうだった?」

「あ、うん。ちゃんといっしょに来てくれたよ」

「そっかーよかった!サンジはいいやつだったろ!?」

「うん、とっても優しかった!サンジ君っていい人だね」

「だろ!?おれの友達はみんないいやつだからな!」

「あはは、そうだね。そうそう、それでサンジ君ってばさ・・・・・」









予想通り、というべきか。


おれはまた足音を忍ばせて、部屋へ戻った。

もう、これ以上聞くことができそうになかったから。



そのままベッドに倒れこむ。





「・・・・・・」





極めて端的な言い方をしてしまえば、いまおれは猛烈に腹が立っている。


その気になれば車の一台や二台壊せそうな勢いだ。


会話を聞く限りどうやらルフィのやつがモーダにサンジを紹介したように思えるが、
弟の死刑などいつでも執行できるのでとりあえず今は置いておこう。




だが、よく考えれば(別によく考えなくても)
おれが腹を立てる理由や資格などないのだ。

別におれはモーダの彼氏でもなんでもないのだから。


はっきりいっておれが一方的に気持ちを寄せているだけで、
モーダのほうはわからない。



つまり、彼女の気持ちや行動に、おれがとやかく口を挟む権利などこれっぽっちもないのだ。








だが、想像してみてほしい。


仮に君に好きな人がいて、その人は以前からの友達で、
急に恋愛感情を意識してしまったことだけで動揺がおさまらないし、
はたして今さら自分のことを異性として意識してくれるのかという焦りに包まれているのに、
その人が自分以外の相手と学校外で親しげに歩いているのを目撃してしまい、
それを楽しかったと語っているのを耳にしてしまったときのこの胸中を。









はっきり言おう。


おれは、嫉妬してんだ。





いや、嫉妬というには生ぬるいかもしれない。





もっとはっきり言おう。





ぶん殴りたい。







「・・・・・・・」



・・・おれってずいぶん幼稚だったんだな。



いや、確かにあのサンジとかいうやつは一発殴ってやりたいが
それだけじゃない。









おれは、あの男と同じくらい、いやもしかするとそれ以上に、
モーダに腹を立てていたんだ―――――




今日、サンジと並んで歩いていたあいつは、
笑っていた。
いかにも楽しげに。


うるさいくらいに元気よくといった笑い方をするあいつではないが、
見ているとこっちも自然に笑ってしまうような、こっちまで優しくなれるような
そんな優しい顔で笑う。





おれは、そんなあいつの笑顔が大好きだ。



だが、その“大好き”は限定仕様だったみたいだ。






なぜなら―――――




おれ以外の男に向けたあいつの笑顔なんて。






「・・・・・大ッ嫌いだ」






この世で一番大切にしたい笑顔のはずなのに。
守ってやりたいはずなのに。



―――――グチャグチャに踏み潰してやりたくもなるんだよ。










いまのおれの気持ちを理解できない、というやつは、
きっと――あくまでもおれの独断と偏見だが――“本当の恋”をしたことがないんだろうと思う。


可愛さあまって憎さ百倍という言葉があるが、
いまその意味を身をもって理解した気がする。



もとより、嫌いで腹を立てているんじゃない。

好きだから―――――いっそそのすべてを自分のものにしてしまいたいくらいに好きだからこそ、
あいつの真意がどこにあるのかわからないことに、不安と苛立ちがつのってしまうんだ。



そしてそれが自分には向けられていないのかもしれない、と思ったとたんに
好意は一気に裏返る。





――――――なんて理不尽だ。

自分でもそう思う。



でも、自分以外の、本来自分の思い通りになるはずのない他人を手に入れたいと思い、
自分だけのものにしたいと、自分のことだけをみてほしいと、
そんな言うなれば究極のわがままが、恋ってものの本質なんだとすれば―――――





理不尽なのは当たり前だ。

そうだろ?

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