Novel

□想いは唇にのせて
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気がつけば、いつもあんたがそばにいた。


嬉しいとき、悲しいとき、寂しいとき―――――
いつだってあんたは私の一番近くにいて、私を包み込むように見守ってくれていた。

あんたが・・・ルフィがそばにいてくれたから、いつだって私は“私らしく”いられたんだ。


どうかこの幸せが、永遠に続きますように――――――














「ねぇルフィ、このTシャツはどう?似合う?」


「こんなのはだめだ!」


「なんで?」


「胸が開きすぎだ!!」



「じゃぁこのスカートは?」


「こんなのもだめだ!短すぎだ!」


「短いのはだめなの?」


「だめに決まってんだろ!足首まであるやつ履け!」


「そんなの可愛くないじゃない!ん〜、じゃぁこっちは?」


「だからこんなのも・・・」


言いかけて、ルフィははっとして私を見た。



「はっ!まさかお前わざとか!?」


「・・・ふっ」


その反応がおかしくて、私は思わず吹きだしてしまった。



「あははははは!」


「ナミ〜こんにゃろ!おれは怒ったぞ!!」


「あははっ・・・ごめんごめん!」


「おれはもう知らん!外にいるからな!」



ご立腹のルフィは、お店から出て行ってしまった。


私はこみ上げてくる笑いを抑えながら、会計を済ませる。



外に出てみると、お店の前のベンチに腰掛けているルフィが目に入った。



「ルフィ!」


「・・・・・」


・・・あれ?無視してる。



「ルーフィー!」


「・・・・・(ツーン)」



唇を尖らせて、そっぽを向いてるその顔は、まるで子どものよう。


また笑い出しそうになってしまったけど、さすがにルフィが本気で怒り出しそうなので必死にこらえた。



「ルフィ?・・・怒ってるの?謝るわ。ごめんね」


「・・・・・ナミは・・・」

「ん?なに?」



「ナミはただでさえ可愛いんだからな!」


「・・・えっ!?」


「あんな服着たら、男はみんなナミのこと好きになっちまう。おれはそんなの絶対嫌なんだからな!!」


「・・・!///」




相変わらずルフィはそっぽを向いていたけれど、その言葉はまっすぐに私の心に届いた。


ルフィの隣に腰掛けて、彼の手にそっと手を重ねる。



「ごめんね・・・ルフィ。私、ルフィが私の服装とか、気にしてくれるのがうれしくて・・・・・その、今までは、なんにも言われなかったし」


「・・・うん」





「わ、私ね・・・ルフィ以外の男の人なんて、全然興味ないわ」


「・・・え?」


「私は・・・ルフィしか見てないし、ルフィしか好きじゃないの。だから・・・・・」



言い終わらないうちに、私はルフィに抱きしめられていた。





「もういい・・・怒ってねェ」


「・・・ホントに?」


「あぁ。すっげぇ幸せだ!」



私から体を離し、ルフィがそう言って笑った。


私の大好きな、太陽のような笑顔。


それを見たら、私も自然と笑顔になる。



「私も・・・すごく幸せ!」





2人で笑いあって、幸せを喜びあって・・・・・



今この瞬間が、人生で一番幸せだと感じる。



大切な人を殺されて、魚人たちに支配されて、“独りでも平気”と強がっていた頃の私でさえも・・・・・
今は愛しいと思える。



そう思えるようになったのは、ルフィに出会えたから。


ルフィが私の傷も過去も、すべてを受け入れて、愛してくれたから――――――









「んー、なんか腹減ってきたなぁ」


「そうね、そろそろお昼だし・・・どこかに入りましょう」


「やったー!骨付き肉10個食うぞっ!!」


「そんなに食うなっ!!」





レストランを探して歩きはじめると、
どこからかクラシックのような音楽が聴こえてくるのに気がついた。



「ねぇねぇルフィ、なんか聴こえない?」


「んー??あぁ、なんかきれーな音が聴こえるぞ!」


「オーケストラでもやってるのかしら」


「メシ屋の演奏かな!?行ってみよーぜ!」


「んなわけないでしょ!・・・あっコラ!」




走り出してしまったルフィと、聴こえてくる音楽を追いかけると、たどり着いたのは・・・・・



「あぁ・・・なるほど・・・・・」


そこは、小さいけれど素敵な教会で。


今まさに、結婚式が始まろうとしているところだった――――――――




「なーんだ。メシ屋じゃねェのか」


「ねぇルフィ、ちょっとだけ結婚式見ていかない?」


「えぇ〜・・・おれ早くメシ食いてェぞ・・・・・」


「ちょっとくらいいいじゃない!」


「・・・わかった。ナミでもこーゆーのに興味あんだな」




「・・・・・・“ナミでも”って、どーゆー意味よ」


「え!?あ、いや、別に・・・」


「あんた・・・あたしがただの金の亡者で、女の子らしい夢とかロマンとかひとつも持ってないとでも思ってんじゃないでしょうね!?」


「い、いやそこまでは・・・」


「そこまでってなによ!どこまでだったら思ってんのよ!」






「あ、あの〜・・・そろそろ式が始まるので、できればお静かに・・・」


式の参列者らしい男性に声を掛けられて、私は思わず赤面した。


そうよね、人生の門出になる日に、騒がしくして迷惑かけちゃいけないわ!








いよいよ式が始まって、私もルフィも黙ってそれを見ていた。


とてもきれいな新婦さんが、ゆっくりとバージンロードを歩いていく。


今まで自分が歩んできた人生を、振り返ってなぞるような・・・・・


今まで積み重ねてきた日々、今まで生きてきた自分があるからこそ、今の幸せがある。


凛として歩くその姿は、私にそんなことを思わせた。




その後は、神父さんの祝福のことばがはじまって、ルフィは少し退屈してきたみたい。


私の後ろで、あくびでもかみ殺しているのか、少し背を向けてうつむいている。





そして、誓約の時。


ここは、どうしても見てみたかった。



「新郎は、病めるときも健やかなるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、死がふたりを分かつまで、新婦を愛することを誓いますか?」



神父さんの、朗々とした声が響いた瞬間、私は指に何かが触れるのを感じた。




驚いて見てみると、


「・・・えっ・・・・・」




左手の薬指にはめられた“それ”は・・・・・
ルフィの赤いベストを破った切れ端を、丸く輪のように結んでいて。




そう、まるで、指輪みたいな―――――――





そして、ルフィは私の耳に唇を寄せて囁いた。




「・・・誓います」

と――――――




私は、両手で顔を覆った。


溢れ出す涙をこらえるなんて、できなかった。



ルフィが、私をそっと抱き寄せる。




「新婦は、病めるときも健やかなるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、死がふたりを分かつまで、新郎を愛することを誓いますか?」



そんなの・・・聞かれるまでもないわ・・・・・




「・・・誓います――――――」





ねぇ、ルフィ。


私はさっき、“今この瞬間が人生で一番幸せ”だと感じたばっかりだった。


でも・・・今、さっきよりももっともっと幸せだと、そう思えたの・・・・・


ルフィが与えてくれる幸せに、限りや終わりはないの?



だとしたら、きっと・・・・・ううん間違いなく、
私は世界一の幸せ者だわ。







「それでは、誓いのくちづけを」



聞こえてきたその言葉に、
私が目を閉じた次の瞬間。



これ以上ないくらい優しく、
ルフィの唇が私のそれに触れた――――――







私はこの日を、たとえ死んでも忘れない。


2人で永遠を見た、この瞬間を―――――――






想いは唇にのせて







「ごめんなー、ナミ。そんなのしかやれなくて」

「・・・ううん」


「海賊王になったら、おれが世界で一番きれーな宝石でできた指輪をやるからな!」

「・・・ううん、いらない」


「・・・・・え!?」


どんなに高価なものだって・・・ルフィがくれたこの指輪にはかなわない。

世界でたった1つ、私のためだけの指輪。



「これがいいわ。この指輪より素敵なのなんて・・・・・世界中探しても見つからないもの」



「・・・ナ、ナミが財宝をいらねぇって言ったぁ〜!!嵐が来るぞーっ!!!!」


「・・・・・殴るわよアンタッ!!!!」

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