Novel2

□近くて遠い人
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なにかを手に入れるためには、なにかを失わなければならないという。

ならば、
なにかを失えば、必ずなにかを手に入れることが出来るのだろうか。


そんな保証など、どこにあるというんだろう?



















2月14日。

今日は、一年で一番憂鬱な日だ。


ため息をつきながら、姿見の前で制服に袖を通す。

昨夜ほとんど眠れなかったせいか、顔を見るとうっすらとクマができてしまっていた。

リボンタイを結んで全身を見つめると、無理やり笑顔を作った。


(大丈夫・・・大丈夫よ)


声には出さず、呪文のように繰り返す。

何度も自分に言い聞かせるように。



「・・・よしっ」

気合いを入れてカバンを手に取り、
まだ寝ているであろうルフィを起こしに隣の家へ向かった。







「・・・ルフィ!ルフィったら!!」


「ん゛―・・・」

「さっさと起きないと遅刻よ!!」

私がカーテンを開けると、部屋に一気に朝日が差し込み、
ルフィはうっと呻いてますます布団にくるまった。


「うーん・・・もうちょっと・・・」


痺れを切らした私は、
むにゃむにゃ言っているルフィから、勢いよく布団を取り上げた。


「うわっ!なにすんだナミぃ!!」


「なにすんだじゃないわよ!あんたがさっさと起きない・・・か・・・」


最後まで言い終える前に、
私の目は、起き抜けのルフィに釘付けになってしまっていた。


半分くらいしか開いていないまぶたをごしごしとこすっている姿は、
すごくガキっぽいのに。



朝日に照らされて光る、程よく日焼けした肌。

寝巻きに着ているシャツがはだけ、綺麗な形の鎖骨が覗いてる。

外れたボタンの合わせ目から、華奢に見えてしっかりと筋肉がついた胸が見えた。




「・・・なんだぁ?ナミ。おれの顔になんかついてっか?」

寝起きで少しかすれたその声さえも、
私の心を甘く刺激する。



「・・・な、なんでもないわよ!!いいから早く支度して!遅刻よ!!」


きっと真っ赤になっている顔を見られたくなくて、
私は壁に掛けられている制服をルフィに向かって投げつけると、
部屋をあとにした。


バタンッ!!と閉めた扉の向こうから投げることねェだろー、と文句が聞こえてきけど無視した。



だって、だって・・・

「どうすればいいのよ・・・」



私は途方にくれたような気持ちで、その場にずるずると崩れ落ちた。








私とルフィが出会ったのは、10年前。

母子家庭で、母と姉と3人で暮らしているマンションの隣に、
ルフィとその兄2人が引っ越してきたのだ。


両親がいない、とのことだったので、私のお母さん―――ベルメールさんは、
引越しの直後から3兄弟の面倒をみるようになって、
私と姉のノジコも彼らと自然と仲良くなった。



少しぶっきらぼうだけど優しいエース、
知的で大人っぽいサボ、
やたら明るくてやんちゃなルフィ。


同い年のノジコとエース・サボと、一つ違いのルフィと私。



末っ子の私はなんだか弟ができたみたいで嬉しくて、
いつもルフィといっしょにいた。

学校への登下校もいっしょで、
お弁当を作ってあげたり、
勉強を教えてあげたり。



いつもルフィと手をつないで、なにをするにもいっしょだった。






―――あの頃、私たちの間には性別がなかった。


だから長いこと、この感情に名前をつけることができなかったんだ。







変わったのは、いつからだったろう。


いつのまにか、ルフィの背が私を追い抜いていた。

小さかった手も、私より大きくなっていた。


声変わりも、体つきも、肩幅も。

なにもかもが私とは違っていた。



―――変わっていくルフィを目の当たりにして、ようやく、
自分たちは“男”と“女”なんだと気づいた私はバカだろうか。






何度も自分に言い聞かせた。


私たちは、ただの幼なじみなんだと。




何度も否定しようとした。

何度も忘れようとした。

もう答えは出ていたのに、それでも気づかないフリをした。



だけど、この気持ちをなかったことにすることもできなかった。

無視できる程度の、ちっぽけな想いじゃないのだから。



本当は、とっくにわかっていた。

私は、きっと出会った頃からずっと、
ルフィに恋をしていたんだと――――――

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