小説メモ&拍手お礼絵。
□絶対服従。
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しかしナタリアからしてみれば、逆に今のガイの態度の方がありえない事態らしく、ついにはその透き通る涙を瞳から零してしまう。
「……っ、どう、してですの…?
どうして…、私に、近付くななどと……仰りますの…!?」
「……っ、ナタリア」
「……ふっ、うぅ……ガイさまぁ…っ」
そのまま、ナタリアは本当に少女のように泣きじゃくる。
理不尽な理由だとしても、己のせいで好きな女性を泣かせるのはガイにとってとても心苦しいものだった。
何とか宥めようと彼女の暖かい色の髪に手を伸ばすが、やはりその途中で震えと寒気に制されてしまうことが心底悔やまれてならなかった。
ふと、ナタリアが一生懸命涙を拭っていた手を止め、ガイの方へと視線を上げる。
その翡翠色の瞳は、落胆と悲しみと……諦めのような色に満ち溢れていた。
「……ガイ様は…、私のことがお嫌いになりましたのね……」
「――…っ!!
ちが……」
「だって、触れたくないのでしょう…?近付きたくないのでしょう…?
嫌いになった以外の理由なんて、思いつきませんわ……」
「……っナタリア…」
どういう訳か知らないが、ガイの持ち前の恐怖症を把握していないナタリアには、確かに彼に触れてもらえない理由などそれしか考えられないだろう。 今の彼女には、好きだけれど怖い、というガイの心象などきっと理解できないのだ。
『嫌いじゃない』を証明するには、言葉だけではなく行動も伴わなければナタリアは納得しないだろう。 しかしガイには、どうしてもそれができなかった。
彼女に触れたい、もっと近付きたい。 でも触れられない、近付くのが怖い。
気持ちは『触れたい』。 でも心の病が『触れさせない』。
彼女の誤解を解きたいのに、その唯一の方法を実行することができず、ガイは片手で自分の前髪を握り締め、唇を噛んだ。
ナタリアに触れられないのが、こんなに苦しく狂おしく思えたのは、初めてだった。
やはり自らに触れようとしないガイに、ナタリアは再び透明な雫をその瞳に浮かべる。
そしてその事実に対する悲しみのあまり、ナタリアが再度顔を手で覆ったとき、“それ”はヒラリと彼女の胸元から舞い落ちた。
「……っ、何だ…?」
ちょうど彼の元へ行き着くかのように舞い降りたのは、1枚のカードらしきもの。 どうやらナタリアのスカーフの裏側に、粘着力の弱いテープで貼りつけてあったらしい。
裏返しに落ちてその正体を悟らせないカードを、ガイは訝しみながらも手を伸ばして拾い上げる。
――何となく、嫌な予感がした。
「…………っ!!!!」
予感は、的中したらしい。
そのカードの送り主は、やはりあの少女であった。
『ガイへ♪
酔っ払ったナタリアに色々吹き込んだら、なんか面白いくらいに信じ込んじゃったんで、実際面白かったから、ナタリアはガイに雇われてて可愛がられてて愛されてて、今ナタリアはどっかで仕事サボってるご主人様を探してる途中なんだよってことを洗脳してみました〜☆ つまり今のナタリアは、ガイに忠実なメ・イ・ド♪
んじゃ、充分楽しんでね〜vv
可愛いアニスちゃんより☆』
「………………どうしろっていうんだ、俺に……」
ガイは、視界から脳にのろのろ伝わったその文面に、思いっきり溜め息を吐きながら呟いた。
しかし口から零れたその問いに、あの眼鏡を掛けた男の『はっはっは、どうすることもできない貴方を見ているのが楽しいんじゃないですか☆』という幻聴が聞こえたような気がして、彼は頭を抱えてさらに深く溜め息を吐く。