小説メモ&拍手お礼絵。

□こっそりガイメリ部屋。
3ページ/6ページ

『傍に居たくて。』






「あの…、ガイラルディア様……?」



ふわふわとした、肩くらいまで伸ばされた橙に近い綺麗な金色の髪の毛を持った少女は、自分の近くに居る男性に怖ず怖ずと名前で呼び掛けた。
それに、呼ばれた青年は笑顔で返す。

「うん?どうしたんだい」

髪の毛に指を通されながらそう問われ、少女はぴくんっと一瞬身体を竦ませる。
赤くなっていく自分の頬の体温を感じながら、その少女は彼を見上げて弱々しくこう言った。





「……私、どうして此処に居るんですか…?」







――本来ならば、もうとっくにこの部屋を出ていて、廊下や庭の掃除をする予定だった。
この部屋の主に、公務に必要な書類を持ってきて欲しいと言われて、此処にやってきたのだから。

その書類は、今彼の机の上に綺麗に重ねられて置いてある。
だから、少女に科せられた役目はもう終わっていて良いはずだった。





それが、何故か彼女は未だに此処に居る。
…それも、この部屋の主であり少女の主人でもある男性の、――膝の上に。






「……俺が君に此処に居て欲しいと思うからだよ、メリル」


問われた質問に、微笑みと共に返す。
自分の近くに居る……いや、近すぎるくらいの距離に居る男性のその笑みと言葉に、メリルと呼ばれた少女は更に顔を赤くして慌てたように彼から視線を逸らして俯いた。
その仕草に可愛いなと思いつつ、彼――ガイラルディアがメリルの頭を優しく撫でると、小さく抗議の声が飛んできた。

「で、でも……私、他にお仕事が……っ」
「今日1日くらい休んだって、どうってことないよ」

この状況からの逃れるための精一杯の抗議も、彼の一言でばっさりと切り捨てられる。 ガイラルディアにとって、そんなことはさして大きな問題ではないらしい。
しかし雇われた身であるメリルにとっては割りと大問題なので、少女は小さな抵抗を止めない。
メリルはぱっと顔を上げる。

「そっ、そんな事ないです……!
お掃除は毎日しないとお部屋が汚れてしまいますし、お花だってお手入れを欠かすと枯れてしまうんです」「……君の他にもメイドは居るだろう?」
「ダメですっ。他の人に任せて私だけ何もしないなんて、悪いです!」

余程この状況が好ましくないのか、それともメイドの仕事に誇りを持っているのか、彼女は一向に引こうとしない。
後者の方が嬉しいかなと思いながら、ガイラルディアはメリルのあまりの熱意に降参だという風に両手を上げて苦笑した。

「…分かったよ」

主人が漸く肯定の色を示したことに、メリルはほっとしたような笑顔を浮かべる。 この表情からして、先程の考えは前者が正解だったろうかと思考を傾けつつ、それに構わずガイラルディアは上げた手をそのまま彼女の腰と背中へ回した。
喜んだのも束の間、結果的にさっきよりもより接近をした体勢に、メリルは慌てることも忘れて固まってしまう。

「――えっ、ガ…ガイラルディアさ……」
「……なら、他のメイド達にも後で順番に1日休暇をとらせて、穴埋めするよ。
それなら良いだろう?」
「ぇ、えっ……と」

自分の思惑とは違った解決策に、ただ戸惑うメリル。
確かに、ガイラルディアの提案は妥当である。 『仕事をサボるわけにはいかない』というのと、『自分だけ休むのは申し訳ない』というメリルの言い分を、見事クリアできている。 つまり、極端に言えば、今日のメリルの仕事は誰かにやってもらうことにして、後日その誰かの分の仕事を彼女がやれば良いということである。
しかしメリルはそんなことより、ガイラルディアに抱き抱えられるこの姿勢が落ち着かないのか、漸く慌て始める。

「でっ、でも……!あの……」
「……俺の言うことが聞けないのかい?メリル」
「――…っ」

しかし細められた瞳で見つめられて、メリルの言葉と思考は奪われる。
それを分かった上で、ガイラルディアは言葉を続ける。

「俺とこうしてるのは、嫌かい?」
「えっ、ぁ……えと…」
「俺はメリルの傍に居たいんだ。君からしたらそれは、迷惑かな…」
「そ、そんなっ……!」

急にしおらしくなったガイラルディアに、メリルは別の意味で慌てる。
もしかしたらこれも策略の内かもしれないと微塵も思わないのだから、本当に可愛い。 実際はどうなのかは、この男からは計り知れないが。

「……ぃ、嫌じゃ……迷惑じゃ、ない…です」

たどたどしくそう口にしたメリルの瞳を、ガイラルディアはすかさず己のそれで捕える。

「……本当に?」
「ほ、本当です…っ」

自分の気持ちを疑われたと思ったのか、メリルは少し強めに返す。
それを聞くと、ガイラルディアはふっと表情を緩めた。

「じゃあ、……今日は俺と一緒に居てくれるかい?」
「……っ、は…はい」

出された条件に少し戸惑ったが、彼に肯定の言葉を返すメリル。
それを聞き入れて、ガイラルディアは少女の身体を今一度抱き寄せた。


「……ごめん、今日はもう離せないよ」

耳元で呟くと、メリルの身体がひくっと震える。
それに口元を緩めながら、ガイラルディアは顔を彼女の首筋に埋めた。




心地いい香りと、柔らかさと、ぬくもりと。



それらは全部、愛しい人が今自分の腕の中に居ることを教えてくれる。






――傍に居る…。













メリルの存在をより近くに感じるために、ガイラルディアはより腕に力を込めた。




――End.――

2008.1.10up

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ