小説メモ&拍手お礼絵。

□絶対服従。
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まとわりつくような、甘い甘い独特の芳香。


ぺたりとベッドに柔らかく座り込んだ、少女のような可愛らしい姿。


シーツの上についた細い腕で頼りなく上半身を支える、その一見けだるそうな身体。


こちらまで眩暈のしてしまいそうな、熱く浅い呼気。


艶やかな形の良い唇の奥に覗く、白い歯と濡れた赤い舌。


思わず目を逸らしたくなるような、柔らかくも魅惑的なその視線。


それでいてこちらの目線を捕らえて離さない、水晶のように透き通る潤んだ瞳。







――目の前にある状況に、青年ガイは頭を抱えたくなった。


目の前には、愛しの彼女。
しかし今彼の前に居る彼女からは、普段のような凛とした雰囲気は感じられなかった。




甘い香りに、力のない身体に、乱れた呼吸に、とろんとしたその瞳。





――彼女は誰の目にも明らかに、酒に酔っているようだった。






「……何で、酒なんか…」



そこまで口にしたガイは、その途中ですぐにその答えにまで至る。

飲んだのではない。 飲まされたのだ、恐らくは。



彼女…ナタリアの性格を考えれば、彼女自らが進んで酒を口にしたというのは考えにくい。
それでなくても、己の仲間内にはそういった良からぬ悪巧みをしそうな人間が二人も居る。
飲まされた、という答えが浮かぶのは、至極当然のことと言えた。




「(誰が飲ませたか、なんて、それこそ愚問だよな……)」


そんなことをしそうな人間が二人居る、というよりは、むしろそんなことをするのは二人しか居ない。
彼が今回の疑問を声にして口に出さなかったのは、それが問う前から答えが出ているような疑問だったからかもしれない。

ガイは計らずも、頭を抱えそうになってしまった。






そんな数々の疑問はともかく、さて今のこの現状はどうしたものかとガイは目の前の少女を見据えてみた。

この部屋に来てからというものの、ナタリアはあまり大きな動きは見せていなかった。 というより、じっとこちらを見つめているだけで動かないといった方が近いかもしれない。
そもそも何故彼女は自分の部屋に居るのか、とガイは思った。 が、それも自身に問い掛ける前に答えが存在している疑問であったので、声には出なかった。

そう、彼女は人に連れてこられたのだ。 それも、『ナタリアこんな状態だから、落ち着くまで見てあげて♪』という、いやに明るい声と共に。
状況を把握する前に、ナタリアを連れてきたツインテールのその少女は足早に立ち去ってしまったため、少々気は引けたが仕方なく彼女を招き入れたのだ。

この時点で、最初の『何故ナタリアが酒など飲んだのか』という疑問に対しての答えも出ていたということに気付き、更に飲ませた人物はもはやあの二人であることがより明確になったことで、ガイは思わずガックリとうなだれてしまった。 さすがにあの少女だけでナタリアに酒を勧めたということはあるまい。
怪しく眼鏡を光らせるあの仲間内の一人がこの状況に関わっているのも、もはや明白な事実と言えた。





少々脱線してしまったが、ガイは思考を本来考えるべきことへと戻す。
さて、この状況はどうするべきか。

じっと、ガイを纏うような視線で見ているのは相変わらずである。 自分を見て何が楽しいのか、ナタリアは飽きずにこちらに目を奪われている。
ふと目がかち合うと、何を不思議に思ったのか、それとも何が嬉しかったのか、ふにゃりと表情を和ませて首を傾げてみせた。







……まずい。


ガイは咄嗟に思った。

本人に自覚はないと思うが、明らかにこれは男という生き物に誘いを勘違いさせる行為に他ならない。
実際、今の仕草を目の当たりにしたガイも何かしら堪え難い衝動を感じた。 恐怖症という特有の枷がなければ、彼女の身はもしかしたら危うかったかもしれない、などと情けなくも思う。
普段は厄介扱いしているこの症状に、ほんの少し感謝の感情を覚えた。
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