小説メモ&拍手お礼絵。

□夜のおまじない。
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『夜のおまじない。』







『…お休み。』

ただの挨拶でしかないはずの、それ。


けれどその言葉は、幼い頃の僕が一生懸命に考えた、一つの“おまじない”だったんだ……。













「……眠れねぇのか?」


しん…と静まり返った深夜の寝室。
クリフの声が、フェイトの耳に直接届いた。

「………。」

分かっていて、敢えて返事を返そうとしないフェイト。 認めてしまったら、余計に眠れなくなる気がした。
長く、クリフの息を吐く音が聞こえる。

「はぁ…別に良いけどよ。
とりあえず、眠れなくても無理してでも寝とけよ。明日に響くからな」

返事が無くともフェイトが起きているという事が分かっているクリフは、更に声を掛ける。 彼なりの気遣いなのか。
けれどフェイトは、今眠る事に集中する他に考え事をしていた為、あまり脳には届いていなかった。




………眠れない。 何故眠れないんだろう。

いや…本当は分かってる。
どうして今眠れないのか、どうしていつもは眠れていたのか。


けれど、それは今どうする事も出来ない理由だから。
考えても仕方が無い事だから。




…無理してでも、今は“自力で”眠るしかない。




たった一言で良いのに。
たった一声で良いのに。


今は、叶わないから…。










「…ゆっくり休むんだぜ。
んじゃ、俺は寝っからよ」
「………。」


身を起こしていたクリフが、布団の中に潜り込む布擦れの音がする。
けれどもフェイトは起きている。 目はうっすらと開いたまま。


(……やっぱり、あいつが居ないとダメみたいだな…)

少し自嘲気味に笑って、フェイトは瞳を閉じた。













『――…フェイトぉ、ねむれないの。いっしょにおねんねして…?』



――小さな頃の記憶。

幼かったソフィアは独りを淋しがって、よくフェイトの家で一緒に寝る事が多かった。
困ったような顔で縋ってくる少女に、幼いフェイトは溜め息を吐き。

『…またかよ、ソフィア。たまには、一人で寝てみなきゃダメだろ?
隣の部屋でも良いからさ』
『やぁだ〜。フェイトといっしょがいい〜っ』

駄々をこねるソフィアに、フェイトは彼女の頭にぽんと手を置き、幼いながら諭すような声で話し掛ける。

『じゃあ、ソフィアが寝るまで一緒に居てあげるからさ。
今日は、一人で寝るんだよ。分かった?』
『や〜っ』
『ダ〜メ。ソフィアもそろそろ、一人で寝ることに慣れなきゃ、お父さんもお母さんも心配しちゃうよ?ね?』
『むぅ〜…』


彼に諭されて、少女は渋々ながらもコクンと頷いた。
 

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