小説メモ&拍手お礼絵。

□たった一つの願い事。
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『たった一つの願い事。』







「ぁ……、あった。
フェイトっ、あったよぉ!みてっ」

草むらから突然立ち上がって、嬉しそうな声で幼馴染みの名を呼ぶ幼い少女。
呼ばれた少年は同じく立ち上がってから少女の元に歩み寄り、彼女の小さな手の中にあるものを見て、半ば呆れ気味に、半ば興味深そうに言葉を零した。

「……へぇ。たしかに葉っぱが四つ付いてる。
ほんとに、こんなのあるもんなんだなぁ」

上から降ってきた声に、嬉しそうに顔を輝かせながら自分のすぐ後ろに立っている少年の顔を見上げた。

「ねっ、だから言ったでしょ?
ママからきいたんだもん。わたしはゼッタイあるって、しんじてたもんっ」

えへへ、と可愛らしく笑う少女の小さな土だらけの手の上には、一見どこにでもあるような一本の草。 けれども通常のものより一枚葉の多い、所謂『四つ葉のクローバー』が乗せられていた。
その存在は珍しく、世間では見つけると願いが叶うといわれている。 そしてその話を先日母親から聞かされた少女――ソフィアは、何の根拠も無いそのジンクスを信じて疑わず『何でも叶えてくれる魔法の葉』を探しに、近くの花畑まで来たという訳だ。
彼女の後ろに立って、遂にソフィアが見つけた四つ葉を見下ろしているのは、クローバー探しの巻き添えを喰らった彼女の幼なじみのフェイトである。


何となく『フェイトは半信半疑のまま探していた』という風にも取れるソフィアの言葉に、彼は不機嫌そうな顔を見せる。

「何だよ、それ…。
せっかく一緒に探してあげてたのにさ」

実際半信半疑ではあったけれど、そんな風に言われてはさすがのフェイトもふてくされてしまう。
が、ソフィアの一言でそんな悪い気分はすぐに吹き飛んでしまった。

「えへへ、ありがと、フェイト。
フェイトのおかげで、すぐみつかったよ!だって、前に一人できたときはゼンゼンみつからなかったんだもんっ」

向き合って、ニッコリと笑うソフィア。

「えっ…あ……そっ、そうだね…」

妙にどぎまぎしてしまってうまく話せないのをごまかそうと、適当に相槌を打って視線を逸らす。
一方のソフィアはそんなフェイトの異変に気付く事も無く、小さな手で外方を向く彼の腕をくいっと彼女なりに力いっぱい引っ張った。

「ねっ、かえろ、フェイト」
「え…う、うん」

フェイトが曖昧に頷くと、ソフィアは彼の手をキュッと握って歩き出した。
が、フェイトの方はそのまま突っ立ってその手を引き返す。

「な、なぁソフィア…。一本だけで良いのか?
もっとたくさん摘んだ方が、ソフィアの願いごとだって叶いやすくなるんじゃ…」


ソフィアよりほんの少しだけ現実を知っている彼は、四つ葉のクローバーを見つけてもなおこんな草がヒトの願いを叶えてくれるというジンクスを完全には信じきれていないようだった。 しかし、全く信じていないという訳でもない。
彼なりに『きっと四つ葉のクローバーは、小さな小さな願いごとなら叶えてくれる』と考えた結果、『多ければ多いほど大きな願いも叶えられる』という考えに至り、少年はこんな発言をしたという訳だ。

彼女の願いごとを知る彼ではなかったが、ソフィアの願いを叶えてやりたいという気持ちは、その疑問を吹き飛ばす程に大きかった。 それ故に、嫌々を装いながらも半信半疑のままソフィアの『魔法の葉』捜索にフェイトは協力したのである。
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