小説メモ&拍手お礼絵。
□王子様とお姫サマ。
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「舞踏会…ですか?」
綺麗に整えられ、程よく装飾してある部屋の中に、少女の澄み切った声が溶けた。
その亜麻色の髪を持った少女の視線の先には、対照的に蒼く澄んだ髪をなびかせる女性が嬉しそうな顔をしていた。
「えぇ、そうよ。
今朝、郵便受けの中に招待状が入っていたの。王宮からの差出名でね」
クスクスと、彼女にしては珍しく絶えず笑うその蒼髪の女性の手には、何枚かのカードが握られていて。
「ちょうど私とネルとあなたと、3人分あるのよ。
折角だし、皆で行きましょう?」
しかし、話を持ち掛けられた側の少女は、そうなんですか…と曖昧に笑った。 どうやらあまり乗り気ではないようだ。
「折角ですけど……、舞踏会へはネルさんとマリアさんだけで行って来て下さい。
私は…、行けません。着ていけるような服だって無いですし…」
「あら、ドレスなら貸してあげるわよ。
あ、もしかしてダンスに自信が無いとか?大丈夫よ、相手にリードして貰えばできるわ」
「いえ…、それだけじゃ……」
マリアと呼ばれた女性がいくら案を出しても、なお渋る亜麻色の髪の少女。 しかしきっぱりと断ることすらも彼女には難しいのか、苦笑しながら淡く否定するだけである。
少女がそんな様子なので、マリアは腑に落ちず、なおも誘い続ける。
ふと、
「あぁ……、もしかして気にしてる?
自分はそんな身分じゃないから、とか…」
「……っ!」
一向に変わらない状態の中、マリアが何気なく口にした言葉に、少女の曖昧な笑みが一瞬崩れる。
その変化を、マリアは見逃さなかった。
「…そうなのね」
「………。」
見透かされたと分かると、少女からはあの偽りにも似た曖昧な笑いは消えた。
代わりに、困ったような悲しそうな、切ない表情が浮かぶ。
「ねぇ、ソフィア?
別にそんなの、気にすることじゃないと思うわよ」
「そう、言われても…」
ソフィアと呼ばれた少女は、困惑の色を濃くする。
瞳を伏せて、指を絡めたり弄んだりしながら。
「私は本来、雇われるべき立場なんですよ。
ネルさんやマリアさんのご好意に甘えて、今は妹として接してもらってますが…本当なら…」
「……。」
ソフィアの口から零れる言葉。 それは、嘘ではなかった。
マリアのソフィアへの態度を見る限りでは、普通の姉妹と捉えられてもおかしくないように見える。
しかし一転、ソフィアのマリアの態度を見てみると、言動からして敬語で、通常の姉妹として見るには少々首を傾げたくなる。
しかしこの現状は、決して納得のできないものではない。
ソフィアは言わば、養子のようなものだった。 親を早くに亡くし、親同士が遠い昔仲の良かったこの家に引き取られた。 本来、このような豪奢な屋敷に住まうような立場の人間ではなかった。
したがって、マリアとソフィアの間に血の繋がりなどは一切ない。
そう考えれば、この微妙と思える関係も合点がいく。
マリアとしては、引き取ったにしろ、新しい家族ができたも同然。 しかも歳が近いから、妹かせいぜい女友達として仲良くしたい。
しかしソフィアとしては…、行く当てもないところを親切に拾って下さった相手(の娘)だ。 本来ならそのご厚意に感謝し仕えなければならない立場。 仲良く“お姉ちゃん”として接することなんて、ソフィアには到底できなかった。
マリアはしばし、むぅ…と考えた。