長編
□4,心モヤモヤズキズキ
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夜の屋上、空を見上げると星が数えきれないほどキラキラ輝いていた。
この学校には誰もいない。いるのは俺たった一人。
他の先生はもう作業を終えて帰った。
………と思ったのだが、この男だけはまだいたようだ。
「金時ィ、まだおったんか?」
「…お前こそまだいたの」
そう、モジャモジャ頭でサングラスを掛けたこれでも一応数学教師の坂本。
その坂本が寝ぼけた声で俺に話しかけてきた。
「起きたらもう夜になっとったわ」
「やっぱりな。実は俺もさっきまで寝てた」
「アハハハハ、それで階段降りるのが怖いからずっとここにおったんじゃろ?」
「Σな!んな訳ねーだろ!!!」
いや、その通りだけどよォ……。
「なぁ坂本、ちょっと聞いてもらいてーことがあんだけどよォ…」
「なんじゃなんじゃ、あ!もしかして怖すぎてオシッコ漏れちゃったから立ねーとかか?そーかそーか金時君は可愛いのォー、分かったぜよ、今からワシの代え用のパンツとズボン持ってきちゃるからそこで待っとれ!」
そう勝手に解釈して取りに行こうとしたが、俺は走り去ろうとする坂本の背中に向かって飛び蹴りをした。
「ッブヘΣ」
「何勝手に話進めてんだゴラ、そんなんじゃねーつってんだろ!!…たくよォ、俺が言いてーのはなぁ……俺が言いてーのは……………千歳のことだよっ…」
そう、俺が言いたいのは元カノのこと。
そのことでこいつにも迷惑をかけちまった。
それにこいつは俺の親友。
だからこいつにだけは隠し事はしたくねー…。
「別れたんじゃろ」
坂本が痛そうな声で突然そう言ったから吃驚した。
「な、何で知ってんだよっ」
「態度を見れば丸分かりじゃ、あん時の金時の態度を見ればな」
………あん時とはおそらく俺が激しい頭痛に襲われた時のことであろう。
『千歳』というキーワードを聞いただけで様子がおかしくなっちまった。
「大正解。…学生ん時から色々と応援してもらったってーのに……わりぃーな」
「もう学生時代のことはすっかり忘れたぜよアハハハハ」
俺は胸ポケに入っている煙草を1本取り出し銜え、火を点けた。
ホント羨ましいぜこいつは。何でも笑ってごまかせるし、俺には到底無理だけどな。
「話はそれだけか?金八」
「え?」
「別れたときの話聞かせろっちゅーとるやろ、さ、話すぜよ。思いっきり笑ったるからなアハハハハ」
その笑い声がとてつもなく可笑しく思えてきて俺もつられて笑っちまった。
そしてこいつに千歳と別れたときの話をすべて打ち明けた。
坂本はそれを最後まで真剣に聞いてくれた。
ありがとな、坂本。
「さ、これから飲みに行くとするかのォ」
「そだな」
「金時ィ、その左手のブッソウなもん、早く外すぜよ」
左手のブッソウなもん?
すぐさま左手を見た。
あーこれのことか。…そだな、こんな輝きのねーもんもういらねーよな。よし、
勢いよく薬指にはめていた指輪を外して空に投げつけた。
それから三ヶ月の月日が流れた。