BL小説
□蜩
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遠くの方で蜩の鳴き声が聞こえる…
パシャッと桶にはった水を足で掻けば、水面が揺らいだ…
ただそれだけのこと…
夏の暑い陽射しは夕方になっても余り変わらず、生温い風が縁側に座る俺の頬をかすめっていった…
「そんなとこで何してんだ?」
声に気づいて振り向けば、銀髪の男が立っている。
「夕涼み」
「ふーん…
あ、良いなその水。涼しそう。貸して」
「断る」
「ケチ」
「「…………」」
ムスッと二人で眉を寄せると、いきなり銀時の手が伸びてきて、抱き抱えられた。しかもお姫様抱っこの状態で…
「何しやがる!!」
「ん〜?高杉がどいてくれないから、強制撤去」
「こんな格好じゃなくてもいいだろうが!」
恥ずかしいにもほどがある…
そんな銀時に腹いせとばかりに、濡れた足をバタバタと振って、水をかけてやった。
「そんなことやったって無駄だからね〜。高杉の可愛さが上がるだけだよ」
「黙れ!つーか早く降ろせや」
ニヤニヤと笑っている銀時がクソムカつく…
あぁ、その無駄な言葉しか吐かない舌を、食いちぎってやりたい。
やっとお姫様抱っこから解放されて、足を乾かしていると、さっきまで俺が使っていた桶に足を入れて「あ〜涼しい」とか言っている銀時が目の端にちらついた。
つーかその水もう冷たくないだろうが…
ようやく足も乾いたので、部屋に戻ろうとした所で、太股の辺りが急に重くなった。
「…銀時手前ェ、何してやがる…」
怒りを押し殺す様にして銀時に問いかける。
「何って、膝枕」
銀時の言葉通り、俺の足には銀時の頭が乗っていた…もちろん銀時の足は水に浸かったまま。
「何でこんなことする必要があんだァ?」
「いや、気持ちいいな〜って思って」
マジで殺してやりてェ…
しかし、生憎と今手元に刀はなく、それは実行できなかった…
ならば、拳を使えばと思ったが、無駄な体力は使いたくなかったので止めることにした。
ありがたく思えよクソ天パ。
仕方なく懐から煙管を取り出し吹かしはじめることにした。
そんな俺を見て、銀時は
「あれ?大人しくなったね」としたり顔で俺に顔を向けた。
「黙れ。阿呆には何をやっても無駄だと気づき諦めただけだ」
「馬鹿にされたけど、膝枕してくれてるからいいや〜…
てかさ、俺にも煙管吸わして」
「は?
珍しいな、お前が煙管吸うなんて」
酒は飲むが、銀時が煙管や煙草を吸っているのは見たことはない。
「まぁね」
「ほらよ」
俺が煙管を渡してやると、またニヤリと笑って「フフン、高杉と間接キッス♪」とか言いやがった。
これにはさすがに銀時の鳩尾あたりに拳を振り落としていた。
ぐぇと銀時の醜い呻きが聞こえたが知らん。
「お前ェ最初からそれが狙いか」
「イヤイヤ、誤解だから。今気づいただけだから」
「本当だろうなぁ」
「うんうん!!!」
「フン。なら許してやらァ」
「アザース!!」
暫くの間は、お互い静かに夕涼みらしいことをしていた…
(ずっと膝枕だったが…)
しかし、またどっかの馬鹿な天パのおかげで、その沈黙も破かれた…
ぎゅるるるる〜……
蜩の鳴く静かな空間対し明らかに似つかわしくない騒音が響いた…
「……銀時」
俺はその騒音の主の方向いて殺気をたてた…
「……ごめん…腹減った…」
「ほんっとにお前ェは緊張感のねぇ奴だな…」
「だって、もう夕飯の時間じゃん。そりゃ腹だって減るよ」
「ったく…
仕方ねぇな、戻るぞ」
「おう!!」
いつの間にか日も沈みかけていた……
→あとがき