ニャンコの作文

□夢囚
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混乱している。
ただ、まだ脳が覚醒し切れていないだけ。
夢なのだ。あれはただの夢。
なのに、幻だと安堵したはずの映像は網膜に張り付いたかのように何度も何度もリピートされる。

気分を紛らわすようにそばにあるカーテンを出来るだけ音を出さないように引くと、夜明け前の濃い青が見えた。
時刻はわからないけれど、もう少しすれば日が登るだろう。
そして、眼下に広がる宿と向かい側の道路に…その姿はあった。

「…」

夜明け前。多くの人々がまだ眠りについている時間。
旅の同行者達も宿にいる他の客達もそれは同じだ。
だが、その常識は今のファイからは少し抜け落ちていた。

黒鋼がそこにいる。

それだけで、ファイは宿の部屋から出入り口までを駆け抜けた。


「…くろ、り…ッ」

昼間は人通りの激しかったその道にも、今は人影の一つもなく、ファイはそのまま道の真ん中を突っ切って向かい側の黒鋼のそばまで駆けつけた。
ファイの声に反応した黒鋼が、閉じていた目を開いてファイを捉える。

「何だ……って。足…どうしたんだよ」

特に驚いた様子もなく、つまらなそうに言われた言葉に、はっとして自分の足元を見ると靴すら履いていなかった。

「なんで裸足なんだよ。寝ぼけてんのか、てめぇは」

呆れたようなその声を聞きながら、何故か酷く安心している自分が居た。


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