ニャンコの作文

□叶わない…
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いつも、血を吸い込んだように炎が燃え上がるようにギラギラと輝く真紅の瞳が…彼女を映す度に…優しい穏やかな夕暮れの紅に変わる。

ねぇ、君は…彼女をいつもあんな瞳で見ていたの?

見守るみたいに…
愛おしむみたいに…

もし、君が君の世界に帰ってしまったら…

君はその手で彼女だけを守るの?
その唇で彼女の名前を呼ぶの?

何一つ聞けない問い。
当たり前だ。
オレは、彼の問いに何一つ答えていない。


「…お酒の味がする」

軽く口付けた唇を舐めて、彼を見上げるとその赤い瞳が苛だたしげに細められる。
何だ…やっぱりオレにはあの瞳をしてはくれないんだね。

「酒飲んでんだから、当たり前だろうが」

いつものように不機嫌そうなその声も、今は少し痛い。
けど、からかうような誘うようなオレの声は変わらない。

「でも…こっちの方がもっと酔いそう――」
「…」

くすくすと小さく声を洩らしながら再び彼の口端に舌を這わせると、ぐっとトレーラーに背中を押し付けられ乱暴なキスを与えられて…何故だか強い安堵感が胸の奥に広がった。


そう、オレと触れ合っている時は…故郷に想いを馳せないで。

…きっと素敵な場所なんだろうね。
君が強く帰りたいと望む場所。
君を優しく迎えいれるだろう場所。

「…何を考えてる」
「んー、黒りんたのコトだよー?」

射抜くような真紅にオレは微笑う。

そうだよ、いつかは帰ってしまう君のコトを考えてた。
わかってる。大丈夫…ちゃんと理解してる。
君はオレから離れてく。必ず。

だから――


「…もっと、酔わせて…」


背中にゆっくりと腕を回すと、触れた口付けが一層に深くなった。
熱を孕んだ舌を絡ませて…歯茎、上頤、歯の形すら確かめるように深く深く貪り合う。

「…っは…ッんぅ…ぁ」

酸素を求めて離れたその一瞬すら名残惜しい。
飲み込み切れない二人分の唾液が喉を伝い落ちていく。


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