犬タロの作文

□身長差
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差し出された本と差し出して来た人物を見比べて、シンジはあからさまに嫌な顔をした。

「いらないの?」

少しだけ首を傾げたカヲルに対して、気恥ずかしいような悪戯が見つかってしまったような…何だかよくわからないがとりあえず微妙な感情が浮かぶ。

「気付いてたんだ」

シンジが半ば憮然として呟くと、カヲルは何でもない事のように飄々と返して来た。

「うん、見てたし」
「み、見てたのか!!?」

一体、どこからどこまで!!

かっと染まる頬に、シンジは思わずカヲルの顔を睨みつけた。
けれど、当のカヲルには全くダメージは無いようで。
彼は本棚に目線を移して口を開いた。

「他になんか欲しいのある? 取るよ?」
「調子に乗るな! 退けよ、もう!!」

そう返しながら、カヲルの姿を見ていると…シンジは自分の胸の奥が何故だか切ない気持ちになっていくのに気が付いた。

たった数センチの身長差。
いつもなら全く気にもならないのに、こんな時…すごく大きな差が出来てしまったように感じてしまう。

「渚」
「何?」
「しゃがめ」
「なんで」
「いいから!!!」

自分の言葉に通りにしゃがみ込んだカヲルを見下ろしながら、シンジは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

「…で、何したいの?」

そんなシンジにカヲルは笑う。
楽しそうに細められた赤い瞳にシンジの心臓の音は一気に早まっていった。

「え、と…」

不覚にもその顔に見惚れてしまった自分が恥ずかしくて、思わず俯いてしまう。
…自分は何をやっているんだろうか、いきなり『しゃがめ』なんて。
自分よりカヲルの背が高いのが気に入らないなんて。
…子供みたいだ…。


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