犬タロの作文

□スキなトコ、キライなトコ
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なんだか急に胸が痛くなって歌う彼の膝に頭を乗せると、その歌が止んでシンジが顔を覗き込んできた。

「スキって言ってくれないんだから、これくらいいいでしょ」
「拗ねてんの?」
「悪い?」
「はは、今日だけね」

怒られるかとも思ったが、勇気を出して言ってみたら案外あっさり許可された。
正直ちょっと拍子抜けだ。

「…もっかい歌ってよ」
「気に入った?」
「シンジ君が歌うなら…気に入った」
「そっか」

ぽんぽん、と軽く頭を叩かれてますます子供扱いされているような気がしたけれど触れてくるその体温と包まれるような穏やかな旋律に、カヲルはゆっくりと目を閉じる。


子守歌なんて聞いた記憶はない
母親なんて知らない
体温なんてない冷たい機材に囲まれて育ったんだし

別にそれで良かったんだ

君に会うまでは
君に教えて貰うまでは

あったかいもの
優しいもの
怖いもの
悲しいもの
『スキ』なもの

全部君が教えてくれたから
だから君にもスキって言って欲しいのに


ねぇ 僕のコト、スキ?


「渚、寝ちゃったのか?」

問い掛けに返事はなくて、自分の膝を枕にすやすやと眠るカヲルにシンジは小さく微笑んだ。

「この歌ね…あんまり覚えてないんだけど、多分母さんが聞かせてくれた歌だと思うんだ」

歌詞とか、よくわからないから適当だけど。
そう続けてカヲルの銀色の髪をそっと撫でるとさらさらとしたその感触が少しだけくすぐったい。


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