犬タロの作文
□白い花
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小さい返事が返ったけれど、いつものような無駄な元気さがない。
それに、いつもならぴょんぴょん色んな方向に跳ねてる銀色の髪はぺたんとして、寂しそうな顔で白い花を見つめるその姿は…
「似合わない」
「…」
言い切って不審そうに瞳を細めるシンジにカヲルは唇を尖らせた。
「…僕にだって花を愛でる情緒的な部分あるんだよ」
「情緒的って言葉の意味知ってるのか」
感心したようなバカにしたような言葉にさすがにムカついた。
けど、ムカついた所で自分がシンジに逆らえるはずもない事をよくよく知っているカヲルは"シンジ君"に指先で触れる。
「…」
「花、折るなよ」
せめて持って帰ろうと茎の部分に手を伸ばした瞬間、制止の声が飛んできた。
「なんで?こんなになってんだからいいじゃない」
きっと、このままにしたらもっと可哀想だ。
雨に濡れた花びらが地面に触れたらきっと汚れてしまう。
真っ白だった花びらが汚い色になって、
きっと、そのまま枯れていく。
「…晴れればまた綺麗に咲くよ」
信じられない。
花びらだってびちゃびちゃだし、こんなに弱った花がまた綺麗に咲くなんて。
全く持って信用していない目付きでこちらを見るカヲルに、ふうと小さく息を吐くとシンジは自分の鞄からあるものを取り出した。
「花よりさ、お前にはこっちの方が似合うよ」
「なにこれ」
「飴」
「…」
どん、と差し出されたのは棒付きのうずまきを巻いてる飴。
いわゆるペロキャン。
…本気でバカにしてる。
「いらないの?」
お前、好きだろ? 意地悪な笑みを浮かべるシンジをじとりと見つめてカヲルは所々納得いかないながらもそのペロキャンに手を伸ばす。
「いる」
「ん。素直でよろしい」
に、と笑ったその顔はやっぱり白いあの花によく似ていた。