犬タロの作文

□風の記憶
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大好きな君に…
何年かに一度だけ会いに行く


君の記憶に残らなくても

君が幸せになっていく姿が見たくて
君が笑った顔が見たくて

僕は君に会いに行く


君が14才だったあの日…
君は大好きな人を抱いて笑っていた

君が18才だったあの日…
君は大好きな人を傷付けたと悩んでいた

君が22才だったあの日…
君は大好きな人と共に永遠と歩む誓いを立てた

君が26才だったあの日…
君は大好きな人との新しい命を天から授かった


大人になってしまっても、笑う君の笑顔はあの頃のまま

僕が大好きだった…
ずっとずっと大好きだった、あの笑顔

ああ、良かった…
幸せなんだね

これからもっともっと幸せになっていくんだね

良かった
君が笑ってる



僕はいつだって…遠くからそれを見つめてる



「お兄ちゃん」

黒い髪に、大きな瞳の少年が僕を見つけてニコリと笑う。

…ああ、シンジ君の子供だ。
小さな頃の彼によく似ている。

「お兄ちゃん、何してるの?」

僕の姿を見上げるその子の無邪気な声に僕も微笑む。

「素敵な絵を見ていたのさ」

そう、流れ流れる幸せの構図。
大好きな人のその人生を。

「ボクも見たい!」

僕のその答えに、キラキラと瞳を輝かせる少年に苦笑が洩れた。
だって、君は僕のような傍観者にはなれないから。
君は僕が見つめる絵画の大事な大事な一欠片。


そして、それはまた増えていく。


「君にはもっと見ていたいものがあるだろう?」

そう尋ねると、少年は照れ臭そうに眉を下げた。
こんな所まで良く似ている…

「弟がねぇ生まれたんだ」

また彼の幸せが増えていく

「ボク、お兄ちゃんになったんだよ」

また彼の笑顔が増える

「赤ちゃん、すっごく可愛いんだよ」

また、彼から僕の居場所が消える…

「名前もね、決まってるんだ!」
「へえ、なんて云うのかな?」

彼がまた授かった幸せの種の名前は…

「かをる!!」
「…え」
「かをるって言うの!!ボクの弟の名前」



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