犬タロの作文
□雨に濡れる華
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承諾の言葉を返すと共に、優しく抱きすくめられる。
優しく…と言えばそうだけど、何処か脅えながらとも…感じられた。
気付けば、彼の腕の中に閉じ込められていて。
その体は雨に濡れ…やっぱりすごく冷たかった。
「…シンジ君は、暖かいね」
首筋にそっと顔を埋めながら囁かれた言葉に、ボクは答える。
「…カヲル君が、冷たいんだよ」
一体どれくらいこの人は雨に濡れて居たんだろう。
そう思うくらい彼の体は冷え切っていた。
「そうかな」
「そうだよ」
くすくすと笑う彼に何処か違和感を感じて、ボクは少しだけその体を離し彼のその表情を見つめる。
「シンジ君?」
パチパチと不思議そうに目を瞬かせる彼の頬に右手を沿え、どこか濡れている気がする紅い瞳を覗き込んだ。
「寂しい、の?」
ふわり…雨の中を湿った風が吹き抜けた。
「…そんな事…ないよ…」
少しの沈黙の後、彼はボクの言葉を否定し笑った。
彼らしくない…不自然な笑顔。
(嘘つき)
心の中で呟いて手にしていた傘を放す。
水溜まりに落ちた傘が、ぱしゃんと小さな音を立てた。
「濡れてしまうよ?」
「今更…」
首を傾げた彼に、ボクは撫然と言い返す。
「そうだね…」
苦笑した彼の背中に腕を回し抱き締める。
ボクの温もりで、彼の冷たい体が少しでも暖まるように。
そんなボクの行動に彼が少し困惑しているのがわかったけど、そんな事よりずっと大切なものがあるから…ボクは彼を抱き締める。
「好きだよ?」
「…」
呟いた言葉に、彼が息を飲んだ。
「カヲル君のこと、好きだよ?」
誰よりも好きだよ?
わかるでしょ?
ボクは君が好きだよ?