犬タロの作文

□紅[クレナイ]の鎖
2ページ/3ページ

ぼう…っとそれを眺めていたら、なんだか飴玉みたいに見えて…ぺろりと舌先で舐めてみた。
…口に広がる鉄の味。
生暖かいもの。
―――…気持ち悪い。
やっぱり見るだけの方がいいな。
新しい事がわかった。




「…腕、どうしたの?」
また尋ねられて 用意していた言葉を返す。
けれど、ボクの"答え"に"彼"はおかしそうに口の両端を上げた。

「…嘘吐き」

くすくすと笑いながら紡がれた言葉に心臓がどくりと音を立てる。

「ダメだよ?自分で…自分を傷付けるなんて」

悪い事をした子供を諭すような優しい物言いだと云うのに、含まれていた全く違う何かに嫌な汗が背中を伝った。

「ねぇ、そう思わない?」
「…ッ」

穏やかに笑みを溢れさせながら腕を取られる。
するすると解かれていく白い包帯。
露になる、醜い腕。

「…ほら、傷だらけ」
「…は、離してよ!!」

まるで、楽しいおもちゃでも見つけたようなその笑顔に 腕を掴む手を振りほどいた。
けれど彼の瞳はまるで射抜くかのようにボクを見つめる。
…どうして?身体が、熱い…。

「…心配して欲しいの?構って欲しいからこんな事をするの?
――…ねぇ、気付いて欲しかったんでしょう?」
「ち、違…」
「違う…?なら、何故こんな事をするんだい?」
「……っ…」

まるで嘲笑うかのような声に反論しようとするが…それすら見透かすように紅が光る。
ボクが好きな赤色が。

「…ねぇ、どうなの?」

微笑む彼に、ボクはどうしようもない程ざわざわと騒ぐ胸を押さえた。

「傷付きたいんだろう…?君は痛みが欲しいんだ」
「ち…が…」

少しずつ縮まる距離をどうする事も出来ない。
ただじりじりと胸を焦がすような感覚に無意識に涙がにじんだ。

「違わないよ。そんなに傷付きたいのなら、僕が傷付けてあげる……痛みなんかわからなくなるくらい優しく…ね」
「…ぁ…」

傷だらけの腕に舌を這わせて彼が笑う。

「…ねぇ、シンジ君?」


綺麗な赤。紅い瞳。
流れる赤。光る紅。
好きな色。
でも嫌いな色。
怖い色。



次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ