犬タロの作文

□月と涙と…
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ふらふらと立ち上がったシンジ君が僕の名前を呼びながら、首に腕を回し抱き締めてくる。
彼の身体はとても軽く…いつもならよろける事もないが今日は突然の事だったのでつい僕はバランスを崩し、ソファに座り込んでしまった。
けれど、シンジ君はただ泣きながら僕を強く抱き締めてくる。
「えぅ…ふえぇ…」
「シンジ…君…?」
状況が理解出来ないまま背中に腕を回し、あやすようにゆっくり抱き締めると彼の涙が一層溢れ僕の肩を濡らした。

「すまん、渚!!堪忍したって!」
「ごめんなー!」
「少しだからね!本当に少ししか飲ませてないからね!!」

身の安全を懸念した彼らが大声で叫び部屋を勢い良く去って行く。
本当ならば捕まえて…いや引き留めて色々と話を聞きたかったが、この状況ではどうすることも出来ない。
とりあえず、彼らへのお仕置き…ではなく確認は後日という事にして、今はシンジ君だ。

「どうしたの?何か…あったの?」
泣き続けるままで返事をしない彼に、優しく問掛ける。
「…教えてくれないのかい?僕には言えない事?」
ぽんぽん、と軽く背中を叩いてやると震えている彼の腕に少し力が入った。

「…め…なさ」
「…え?」
「ごめ…なさ…ごめんなさい…」

聞き取れないその微かな言葉に、再び声に疑問の色を含ませるとシンジ君はただ強く腕に力を込め…まるでうわ言のように同じ言葉を繰り返す。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「シンジ君?」
涙を流しながら繰り返されるその悲痛な声。
何故、彼はこんなにも辛そうに泣くのだろう。

僕が居るのに…
側に居るのに…


「好き…なの…」
「………」


「ボク、かをるくんが好きなの…大好きなの…っう…ごめんなさ、ごめんなさいッ…」
「どうして…謝るの?」
「だって…だって!…かをるくんはキレイだもの…。キレイで頭もよくて、かっこよくて…皆そう思ってる…」
「…………」
「ボクなんか、ふさわしくないって…きっと嫌いになられちゃうんだって…。ボクなんかがかをるくんを好きでいちゃいけないんだ…って」
「何故?」
「ボク、頭悪いし…女顔だって、よくからかわれたし…。ダメなんだもん…ホントに…ホントにダメなんだもん…。かをるくんだって…ボクに好きって言われても嬉しくないでしょ…気持ち悪いでしょ…だから、だからぁ」
「そんな事ないよ…」
「だって、…ボク…ッふぇ」


「…君は本当に…仕方がないね」



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