犬タロの作文

□夏祭り―庵Ver―
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『シンジ君と一緒に行きたいな』

そう言って貰えたのが嬉しかったんだ。
だから…今日だけは絶対に我慢しようと決めていた。

でも、どんなにボクが決意していても…頑張ってみても…やっぱりと言うかなんと言うか…。
今までの例に洩れず、あまりの人の多さと密度の高さに酷い目眩と吐き気が襲ってきてしまったのだ。

(もうやだ…泣きそうかも)

思わずじわりと浮かんだ涙を堪えるように固く目を閉じる。


「ねぇ、シンジ君…何か食べたいものはある?買ってくるよ」
「え…」

不意に掛けられたその言葉に顔を上げると、彼は形の良い唇にふわりとした笑みを乗せたまま言葉を続けた。

「縁日、と言えば屋台なんだろう?葛城さんがそう言っていた」
「で、でも」

ボクは戸惑った。
正直言って気分最悪なこの状態では何も食べれないし…それにカヲル君にそんな…使い走りみたいな事をさせるなんて…。

そんなボクの考えが読めたのだろうか?
カヲル君はくすりと笑みを溢すと、しゃがみ込んでボクの前髪にそっと指を絡めた。

「無理にとは言わないが…何か胃に入れて置いた方がいい。心配は要らないよ…君は休んでいて」

ね?、と首を少し傾げたカヲル君のその端正な顔立ちに…ボクは思わず見惚れてしまった。

だって、夜を彩る淡い光に照らされたカヲル君はあまりにも綺麗過ぎて…。

ゆらゆらと揺れる灯りに染まる銀細工のような髪。
滑らかな白磁にも似た肌。
あまりにも整い過ぎているその容貌。
それでも、ボクを映す赤い瞳は一際美しく輝いていた。
まるで真夏の夜空に浮かぶ星のように。


「何が食べたい?」
「え?…え…と、じゃあ…リンゴ飴?」


再び問掛けられ、ぼうっとしていたボクは慌てて頭に浮かんだモノをとっさに答えてしまった。

(なんで…リンゴ飴…?)

声に出した後、つい自分自身に問掛けてしまう。
だってさ…普通、もっと腹持ちのいい物を選ぶべきなんじゃ…。

かなり外した感があるボクだったが、カヲル君は特に気にする事もなく…いつも通りのすごく優しい笑顔で小さく頷き、すっと立ち上がった。

「了解。少し待っていて」





カヲル君を待ちながら…ぼんやりと人の流れを見ていた。

楽しそうに笑ってる人。
屋台で狙った景品が取れず悔しがっている人。
幸せそうな顔で食べてる人。
何かのお面を必死にねだっている子供。


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