犬タロの作文

□―鳥籠の中で…――
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暫くの沈黙の後、シンジはぐっと自分の手を強く握り締めた。

「…君は…カヲル君だよ」

こんなに近く触れ合っていても聞きづらい程に小さな声で呟く。
まるで、罪を犯すかのように。

「渚カヲル君…」

震えた声で…。
まるで自分自身に言い聞かせるように。



「カヲル…君…だよ」



ねぇ、だから彼のように…ボクを包んで。

『好きだと言って』
『優しく笑って』
『手を、握って』


好きだって…もう一度…。




「カヲル…君」

すがるように伸ばした手を強く捕まれる。
はっとして顔を上げると少年…いや、カヲルの紅いその瞳は…見た事もない鋭い光を宿していた。

「…誰を見ているんだい?」
「え」

冷たい響きを含んだ言葉に一瞬息を飲む。

「君は…僕の中に誰を見ているの?誰を求めているの…」
「カヲル…く…」
「違う」

泣きそうなその声を遮るようにカヲルはシンジの肩を掴んだ。
びくり、と脅えたように大きく震える体。





「…僕は君の愛した『使徒』じゃない」





耐えられなかったんだ。
受け入れられなかったんだ。


優しいあの人が、消えたなんて認めたくなかった。


だから造った。
せっかく手に入れた美しい鳥。
手放したくなかった。


だから、だから…
この人は…――――――

「…シンジく…」



サア、ボクヲケシテクレ



『あの人と同じ』


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