犬タロの作文

□変な友達
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ガラリと大きな音を立て扉を開けると、音楽室にあるグランドピアノの前に座っていた彼の人はいつも通りのキラキラした笑顔を浮かべてにこりと笑った。

「やあ、シンジ君。今日もとても愛らしいね」

あぁ、カヲル君…今日も君の周りには咲き誇る薔薇が見えるよ。

「…君のその可愛らしい顔を見る度に、僕の胸は喜びに震えるよ。こんな広い世界で君と出会えた…この夢のような奇跡にね」
「…あ、ありがと………じゃなくて!!」

優しい声に流されそうになる自分を必死に引き留めて、何だかご機嫌なカヲル君を見つめる。
(言わなきゃ…ちゃんと)
そう思うけど、にこにこした彼の笑顔に狼狽えてしまって…うまく言葉が出ない。

「どうかした?」
「あの、ちょっと話が…あって」

少し口篭りながら言うボクにカヲル君はくすりと小さな笑いを洩らすとゆったりとした動作で椅子から立ち上がった。

「愛しい君の話なら、いくらでも聞きたいな。鈴のように可憐な君の声は…まるで至上の音色の如く僕の心を癒してくれる」
「あ、あの」

そして、ゆっくりボクに向かって足を進めてくるカヲル君にボクの心臓の音は少しずつ早くなっていく。

「なんだい?」
「ッ」

尋ねながら伸ばされた手で頬を優しく撫でられて…、顔が一気に熱くなった。
あまりの恥ずかしさにうつ向いたボクの顎を優しく上向かせてカヲル君は笑う。

「恥ずかしがる必要はない。さあ、その瑞々しい果実のような唇を開いて…君の声を聞かせて…?」

そっと唇を指先で撫でられてボクの心臓はいよいよ壊れてしまいそうなくらいドクドクと早鐘を打った。

「…あ、えっと、その」
「ん?」

瞳を覗き込むように見つめられて…本当に死んでしまうかと思ったボクは、ドキドキする胸を抑えながら思いっきり顔を背けると叫ぶように声を上げた。

「こ、こーいうの…止めた方が良いと思うんだ!!」
「…こういうの…って?」

カヲル君の不思議そうな声にボクは言葉を続ける。

「こんな風に必要以上にくっついたり…『可愛い』とか『愛しい』とか。そう言ってくれるの…嬉しい…けど、やっぱり普通の友達じゃない気がするよ」

こうやって一生懸命ボクが喋っているのに自然と肩に回される腕とか髪を撫でてる手…とかね。


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