犬タロの作文

□愛の歌
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真っ暗な暗闇で、愛を求めて泣く子供。

与えられない愛を求めて
優しい温もりを求め続けて

ただただ泣き続ける哀れな子供。



「ボクは、要らない人間なんだ」

何も映さない虚ろな視線を暗闇に向け、呟くように言った彼に僕は何も声を掛ける事が出来なかった。
…どんな否定の言葉を叫んでも彼に届かない事を知っていたから。

「…何の価値もないボクなんて、誰も愛してくれない」

全てに絶望したように、その口元に薄い笑みを浮かべた彼は…悲しみに満ちた視線を僕に向けた。

「…カヲル君も、そう思うでしょう?」

その問いに、僕は答えない。
その問いに、僕は答える資格がない。

「…ずっと、そう思ってたんだ。ただ認めるのが怖かった…」

微笑むその姿は、まるで霞の如く頼りなくて。
僕はその白んだ滑らかな頬にそっと指先を伸ばす。

「………」

しかし、彼は僕の指先をその身をすくませるようにして避けた。
そして、そのまま言葉を続ける。

「…ボクに存在する価値はない。そして、誰かに好かれる事もない」

ぼんやりとまるで夢に漂う羽のように…彼は呟く。

「寂しいよ…すごく、すごく寂しい…」

悔しげに握られる拳。
歪められる顔。

「なんで…なんでボクだけ…。なんでボクだけ愛されないの…。なんで…大事にしてくれないの…」

震える肩に彼は泣く事を必死に堪えているのだと気が付いた。

「…シンジ君…」

僕が名前を呼ぶと、彼は悲観と愁訴に彩られたその瞳に僕を映す。

「…父さんもミサトさんもアスカも綾波も…ボクなんか愛してくれないんだ!ボクなんてみんな嫌いなんだ!!」
「…」

叫んだ言葉に込められているのは…身を引き裂く程の悲愴。
そのあまりの痛々しさに眉をひそめた僕に、彼はふ…とその表情を和らげた。



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