犬タロの作文
□泡沫の旋律
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今はただカヲル君の顔が近くで見てみたくて、ボクがおそるおそる呟くと…カヲル君はベッドから降りてすぐにボクの近くまで来てくれた。
床に敷かれた布団の上、目の前に座るカヲル君の顔はやっぱりとても綺麗だった。
にこり、と微笑まれて今度はその体温が欲しくなる。
「手…握って…」
そう言うと包み込むかのように優しく握られるボクの右手。
彼の手は雪のように白いのに、その体温は暖かくて少しだけ驚いた。
「…頭…撫でて」
空いている手でうつ向いた頭をそっと撫でられると、また少し涙が溢れた。
頭を撫でられる事なんて、今まで殆ど無かったから。
少しだけ視線を上げてカヲル君を見ると、カヲル君はただ優しい笑みを浮かべていた。
ボクだけのために…
向けられる笑顔。
穏やかな眼差し。
「…抱き締めて…」
すごく、すごく小さな声だったけれど…吐き出すように言ったその言葉。
すると…カヲル君はボクの頭を抱え込むかのようにぎゅう…と強く抱き締めてくれる。
カヲル君の胸に耳を押し付けるような格好になって、少し恥ずかしかったけど…。
でも、それ以上に…伝わる温もりと確かに聞こえる心臓の音に心が安らいでいく。
(暖かい…)
守られている。
心からそう感じた。
「…それから?」
抱き締められたまま耳元で囁かれて、少しぼうっとしていた意識が浮上する。
「えっと…」
他に何かあるだろうか…考えてみたけれど何も思いつかなくて。
ボクがそう伝えるとカヲル君はクスクスとおかしそうに笑った。
「…そっか。じゃあ僕がしたいこと、していいかい?」
「…ぇ、ぅん」
その言葉にボクはこくりと頷く。
「…ありがとう」
そんなボクにカヲル君は優しい微笑みを浮かべてボクの唇をそっと撫でた。
「カヲル…君?」
ボクの呼びかけに彼は目を細めて…ゆっくりと唇をボクのそれに寄せる。
触れるだけのその口付けは儚く、一瞬の感触だけを残し離れていった。
「…何…で…」
驚きのあまり呆然としているボクに彼は微笑みを絶やさないまま、その白い指先でボクの頬を辿る。
「好き…って、言っただろう?」
「カヲル君…」
そしてその両手はボクの頬を包み込み、またカヲル君の顔が近くなる。