犬タロの作文
□刹那の羨望
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その姿に薄い笑みを浮かべながらカヲルはシンジに一歩近付いた。
「…ッ」
それに怯えたように揺れるシンジの瞳がカヲルの中の何かを刺激する。
「…そんなに、人が嫌い?」
「…」
また一歩。足を進めた。
「…そんなに、温もりが怖い?」
「…」
また一歩。シンジに近付く。
「…そんなに、僕がイヤ?」
「…」
追い詰められた子羊のように、ただ恐怖に満ちた瞳で。
それでも尚、自分を睨み続けるシンジの頬にカヲルはそっと指を伸ばす。
「…ッ」
息を飲んだシンジに、笑みが溢れた。
「それなら、全部壊してあげようか?」
君が恐れるもの全て
「何、言って…」
楽しそうに言ったカヲルの言葉に顔をしかめた瞬間、上顎を捕えられる。
ぐっと上を向かされ、否が応にも無理矢理目線を合わされた。
無意識に自分の手を強く握る。
「君が僕のものになるのなら」
全部…壊してあげるよ?
「ッ!!」
かあっと頭に血が上っって、シンジは勢いよく握り占めた拳を振り上げた。
しかしそれは再び簡単に避けられ…シンジから少し離れた場所でカヲルはくすくす笑いながらシンジを見つめた。
「怖…」
その言葉とは裏腹に、表情には楽しげな色しかない。
「…ボクに、触るな…」
声に精一杯の嫌悪を込める。
気に入らない。
気に入らない。
こいつの全てが。
出会った時から感じていた。
気味が悪いと。
醜く歪められたシンジの顔に、カヲルは笑う。
それは人外と言えるほどに美しい笑み。
「無理…かな」
くすくすと…楽しげな声で言う。
「…なんでだよ!」
叫んだシンジに、カヲルは眩しそうに目を細めた。
「君が好きなんだよ」
ぞくり、と背中に何かが走る。
「何…を…」
声が震える。
どうして?
…怖い。
「好きだよ。シンジ君。だから、壊したい…」
狂ってる。
シンジは息を飲んだ。
自分を映す赤い瞳が怖くて…怖くて。
それでも、目を反らすことが出来ない。
「僕のものになりなよ」
感じたのは恐怖…そして、一抹の羨望。