犬タロの作文

□キレイなヒト
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「…シンジ君?」
「え、あ、な…何?」

ふいに声をかけられてついどもってしまった。
そんなボクにカヲル君はむ〜っとした視線を向ける。

「…シンジ君は、僕がこんな物貰って嬉しいの?」
「…食べ物系なら」
食費浮くし…そう言った所ではっとした。
でも気付いた時にはもう既に遅し、カヲル君の目は完全に据わっている。

「……そう……………」

あ…、どうしよう…拗ねちゃった。

つまらなそうに頬杖を付いて、夕日の輝く窓の外を眺めるカヲル君はもう完璧にご機嫌ななめだ。

「…カヲル、くん?」
「…………」
返事、ない。

あうぅ…怒らせちゃった…。

焦ったボクはとりあえずお豆腐をキッチンに置いて彼の隣に腰を下ろした。

「…カヲル君?」
「……」
やっぱり無視。

もう…どうしよう…。
困ったボクが視線を巡らせるとカヲル君に投げ捨てられた花束が目に入った。
「………」

乱暴にテーブルに投げ捨てられたそれは微かに花びらが散っていたけれど、真っ赤な花はそのまま凛と咲き誇っていた。

綺麗な…その紅はカヲル君の瞳の色。
ボクを捕える甘い色。

ボクはそっとその花束に手を伸ばした。
「…ねぇ、カヲル君?」
「………」
返事がないのはわかっていながら声をかける。
そして花束を手にすると、艶やかなその花びらを撫でた。

「この花、飾ろうよ」
「…嫌だ」
こういう時は返事するんだから…。

ボクは苦笑して言葉を続ける。
「だって、この花をくれた子達はただカヲル君が好きで…これを貰って欲しかったんだよ。こんなに綺麗なんだもの。飾ってあげなきゃ可哀想だよ…花もその子達の気持ちも」
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