犬タロの作文

□キレイなヒト
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ボクの恋人は、とても綺麗な人です。

「…ただいま、シンジ君」
「おかえりなさい!…って、それ…」

聞き慣れた声が耳に届いて調理していた手を一旦止め喜々として玄関に向かうと、夕焼け色に染まる玄関には見慣れた恋人がずいぶんと苦い顔をして立っていた。
その手に…何故か真っ赤な薔薇の花束を持って。

「…それ、どうしたの?」

カヲル君の手の中で、美しく存在を主張するそれは恐らく彼が買って来たものではないだろう。
(…だってもし彼が買って来たならこんな嫌そうな顔はしてないはずだし…)
不思議そうに尋ねるボクに、カヲル君はやっぱり嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「…さっき…」
「さっき?」

カヲル君の話によれば、ボクが買い忘れたお豆腐を買いにスーパーに行った帰り道いきなり数人の女の子に声を掛けられたらしい。
見たこともない制服を着たその数人の女の子は、カヲル君のファンらしく『これ、受け取って下さい!』とこの薔薇の花束を押し付けて走り去って行ったとのこと。

「…こんなのいらないのに」
ぽつりと呟くカヲル君にボクは苦笑する。
カヲル君は薔薇とか綺麗な物は好きだけど、それは自分で手にするからこそ綺麗なんだと思っているらしく…人から貰ったものとかにはあまり価値を感じないらしい。
だからこういう贈り物は困る…といつも愚痴っていた。

けれど、そんなことを思っていてもカヲル君にはこんな贈り物がしょっちゅう届く。
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